「一本勝ち」に、思う ―デコス選手の目―

お見事!

 一本勝ち、というものの凄さ。そう、「すごい!」とか「すっげえ!!」とかじゃあ、ないですね。「凄い」。凄みがあり、凄まじく、凄絶で……一本勝ちって、凄い。なんとドラマティックなものか。そして、なんというカタルシスをもたらすものだろう。
 いや、最初は私も「うおー!」「やったーっ!」「ハラショーっ!!」と喜んでました。今回初めて知った金メダル一番乗りの内柴正人選手。彼が2回戦ドミニカ共和国代表・ヒメネス決めた一本勝ち、これがなんとも凄かった。見ているこっちの爽快感、あのスカーーーーーーーーッとした気持ちって、なんなんだろう。すっごく弾むトランポリンでポーーーンと宙に飛んだかのよう。内柴選手にしたら、まさに心技体が一体となった瞬間なんだろうなあ……いや、小難しい表現は似合いませんね。単純に、素晴らしかった。こういうとき、スポーツは何にも勝るエンタテインメントとなる。どんな名歌手や大俳優も、一瞬でこんなドラマを生むことは出来ない。
 と、こんなことを書いていたら……今まさに谷本歩実選手が金メダルを獲得、一本勝ちを決めました。これも……凄かった。その見事さ、素人目にも分かるほど。まさに秒殺、電光石火のごとく。見たことないけれど、剣の達人がシュパッと相手をしとめたときって、こんな感じなんじゃないだろうか。それほどに切れ味のいい技だったと思う。
 と、ここで。一本勝ちされたつことも出来ない相手、フランス代表デコス選手の表情に、私はショックを受けた。なんという表情であっただろう。魂ここにあらず、思考のすべてが停止している「目」だった。それでいて、呼吸だけが荒い。体は確かに生きているのに、心が死んでいるような顔。
 一本勝ちの怖さのようなものを感じた。一瞬の油断はあったのだろうから、後から反省すれば納得も出来るだろう。けれど自分を出し切るでもなく、突然すべてが終わってしまった。デコスはその後しばらく立てなかった。大きく両手を後ろについた背中が忘れられない。審判に肩を触れられても、まるで植物のようにその振動を受け取るだけだった。叩きつけられた体は床で止まれど、その心はどこまで沈みゆくのだろう。
 一本勝ちは、凄い。けれど、それは凄惨なる敗者あってこその凄さだ。私などはうかがい知るよしもないが、それがスポーツというものの常なのかもしれない。
 表彰台のデコスは、かけられた銀のメダルに一瞬目を落としたあと、微笑した。その「目」は、優しかった。何かを許すような目だった。負けを呼んだ己が油断を許したのか、それとも勝機を与えてくれなかった、何か「大いなるもの」を認めたかのような、そんな目だった。


○追記
今日は日航機墜落事故からちょうど23年目。はい、以前にも書いた「沈まぬ太陽」を読んでから、この事故が急に身近……という表現は違うと思うが、気にかかるようになった。今年も遺族の方が尾根へ登られていた。遺品の展示なども行われたよう。合掌。


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