そして「篤姫」・6

もうすっかりファンです

 主役とは、何か。私は、「存在感」だと思っている。主役というものに限り、演技の巧拙というのはさほど関係ない、いやむしろ、意味のないものだとすら思っている。
 主役とは、自然に押し出されるものであり、自然にまわりが盛り立てるものだ。ベテランの脇役の方にたずねると、「やりやすい主役と、やりにくい主役がいる」と口を揃えて仰る。
 真の主役者というものは、おのずと脇に主役(シン)を立てる芝居をさせてしまうような、盛り立てようと思わせるような、独得の「存在感」を持っているものだ。
 まこと宮崎あおいという女優は、そういう資質を備えている。振り返ってみると、佐々木すみ江余貴美子高橋英樹松坂慶子中村梅雀といった「手だれ」の役者たちが、篤姫との共演シーンで実に忘れ難き芝居を残している。これは主役の輝き、その存在感に彼らが共鳴した結果に他ならないと思う。
 しかし、この大河という叙事詩の後半戦が、私は不安だった。


 と、なんだか真面目に書き過ぎですね。いきなりクダけますが……宮崎あおい、純粋に可愛過ぎるもんなあ。あの童顔は、今までのシンデレラ・ストーリーや将軍ロマンスには合えど、これからの展開には軽すぎないかなあ、貫禄不足にならないかなあ、などと勝手に危惧してたわけです。
 しかし! 今日放送の「皇女和宮」を観て……うーん、なんちゅうんですかね、不思議に安心してしまいました。
 公家から嫁(和宮)が来る。姑が武家の出ではやりにくいだろうから、篤姫を実家に返そう。そんな策略した老中を篤姫が諌めるシーンがあったわけなんですが、これがまー立派この上なかった。
 私情ではなく、大義のもとに叱責する――そういう大きい演技になっていたもの。これが考えの足りない女優だったら、諌めるというより、立腹しただけの表現で終わってしまっただろう。徳川と共に生きる女の覚悟と、そして篤姫という人の聡明さを感じさせる芝居だった。
 宮崎あおいは、台本の「行間」の中で経過する時間、「そののち三ヵ月後……」などとナレーションによって割愛される時間をも、きちんと役の心になって生きているに違いない。撮影はされない時間を、篤姫はどう生きたか。その結果生まれる「厚み」が、芝居に出ている。このままなら、心配ないぞ!
 あ、蛇足ですがひとつメモ。彼女、低いトーンでピシャッときめる「ならぬ!」「どうしてじゃ!」といったセリフの発声がとてもよくなってきた。これを軽い声、小声でも同様に操れるようになれば大したもの。20代の役者でそれが出来る人は殆どいない。


 そしてこっから一気に今日の感想メモ。いよいよ登場、中村メイコ。思わずテレビに向かって「待ってましたァ!」と叫んでしまう。私なりの最大の賛辞だが……ああ、なんていい「バケモノ」だろうか。なんてったってあなた昭和11年から働いてるんですよ芸能界で。芸歴72年。和宮づき典侍の役ですが、おすべらかし&公家衣装に埋もれて顔だけ見えているよう。それでギロッと目だけ見開いて怒ったり泣いたり。宮中でのし上ってきた猛者ってかくや……という妖しさがプンプン漂う。そしてラジオで鍛えた口舌は今だまろやかにして滑らか。メイコ、フォーエヴァー。
 和宮役の堀北真希。思いっきり偉そうですが……「なかなか、やるじゃない」思わず、そう呟いてしまった。一途で純粋な娘の風情と、プラス天皇が妹であることの強い自尊心。ありがちな芝居に陥らず、彼女なりに「朝廷という不可思議な世界の女とは?」ということを自答したことが分かる芝居だった。
 その母親役の若村麻由美、芝居は文句なし。ただ日舞の修練がアダとなるきらいあり。袖の大振りな公家の衣装で、ヨヨと泣き崩れ和宮と抱き合うところなど、踊りのようで情趣がそがれる。
 そうそう、思わず「リアルー!」と叫んじゃったのが東儀秀樹孝明天皇役ですね。まるでそこだけドキュメンタリーかのような演技。「日本国の・ために・頼めないか・和宮……」とかなんとか、セリフをボツッ、ボツッと無機質におしゃべりになる。はっきりいって棒読みなんですが、これがヒジョーに、それらしい。そしてとっても、やんごとない。最後に笛吹いてましたが、あれは余計だったと思う。ほら貝吹いてる中曽根康弘みたいだった。
 今回は本当にキャスティングの妙が楽しい一本だ。


○さらに蛇足
 そうそう、江守徹演じる徳川斉昭が今回急死。心臓発作みたいな芝居がまた巧いんだこれが。なんか突然怒ったかと思うと「ウッ! クッ……グォオォ……」とか目ひんむいてパタッと死ぬ。すっごい怖い。さすが一度倒れた人は違う。しかし脚本家の田渕久美子何人サクッと殺してるのか……デスノートとか持ってんじゃないだろうか。


○記録
 朝、目覚めれば涼しいどころか肌寒いくらい。そのあともほぼ気温が上がらず、日がな涙雨の続く。降りの弱まった頃合にジムへ行って泳ぐ。ツタヤの抽選半額メールが当たっていたので、エッチラ渋谷駅まで。誰とも話さぬ日曜ながら、ぼんやりと嬉しい一日だった。


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