津川の芸に唸る〜映画『落語娘』

公開中

 とにもかくにも津川雅彦が披露した落語、これがよかった……。引き込まれました。俳優が落語家を演じると、私はいーっつもある種の違和感を感じてしまう。それはつまるところ、一人芝居と落語の違い、なんですけどね。俳優さんは落語というものを、すべてセリフにしてしまうのだ。
 私、落語には詳しくないんですが……落語って歌舞伎でいうところの「捨てゼリフ」だと思ってるんですね。なんていうか、ラジオのパーソナリティ、その名人みたいな感じの喋り方。そう、喋りだと思う。俳優は「台詞」ってぐらいで、喋りではないんですね。そこの違いを知ってるかどうか、いや、「わきまえて」いるかどうか、これが落語家を演じる上でのポイントだと思うんですが……津川雅彦、見事だった。
■ ■ ■ ■ ■ ■
 プレスシートの中で、中原俊監督のインタビューがある。
「津川さんは(中略)噺家を演じきれる部分と、本職の落語家にはなりきれない部分の、ギリギリの見極めといいますか。撮影中も『監督、そこまともに撮ると平佐が真打じゃなくなっちゃう、こっちに逃げてみたら』なんて仰って」
 この部分が印象的。そうそう、映画は見せ方次第。「らしく」演じて、「らしく」みえるように、撮る。津川雅彦の落語がよかった、というだけじゃなく、それをさらに「真打の落語家」のように見せるにはどうしたらいいか、という映画的工夫が凝らされていた。そこに引き込まれました。
 はい、手放しで褒めるわけじゃないです。典型的な放蕩師匠&真面目弟子の珍道中的ストーリー、ちょっと直球に過ぎる展開。なかでも主演のミムラに対するセクハラにはドン引き。プレスには「あれは演出、実際の落語界は今あんなんじゃないですよー」などと関係者が(笑)つきで語っていたが、絶対見た人ああだと思うんじゃないか!? あと、「80〜90年代の津川雅彦復活!」という感じで、伊藤かずえとの非常に「えっぐい」シーン有り。セクシーとかお色気シーンとか、そーいう言葉ではカバーしきれない映像。私は「劣情」という言葉を思い出した。枯れない人だ、津川雅彦

○追記1

そうだ、助演の絵沢萌子が素晴らしかった。貫禄と、ちょっとした妖気、堪能しました。そして津川、びっくりするぐらい一瞬「長門裕之」が入る。顔の造形が似てると思ったことは一度もなかったが、顔の輪郭まで似てきた。年をとるというのはすごいものだ。


○追記2
くだんの「劣情」シーン、すけべえな方はそんな期待しないで下さい。たいしたもんじゃありませんが、私は結構ビビった。ちなみに二人とも脱いでいません。と、こんな期待の持たせ方も劣悪ですね。


○付記・至言ひとつ

週刊朝日8月29日号、林真理子がホステスをつとめる「マリコのゲストセレクション」。この回のゲストが津川雅彦。監督をした『次郎長三国志』のことを語っているが、その中で
林「若い人に、ぜひ見てもらいたいですね」
(中略)
津川「いや、今の若いのはバカだから、時代劇を知らないですよ。歴史を教えてもらわなかったから。時代劇から面白さを感じ取れるほど、文化度が高くないんです
 という名言を残す。この発言を文字通り取ってしまう読解力のない人は置いておく。こーいう「若いのなんてバカ」と言って捨てられる「ジイサン」がたくさんいる文化のほうが、私はいいと思う。年下におもねるような、理解あるような柔らかいことばかりいう年寄りが表立ってる文化は、低い。「興味がないから、知らない」「教えてもらってないんで、知らない。それは当たり前」なんて平気でいうようなやつはバカ、そう言い切れる人のほうが、人間愛のある人だと、私は思う。


○付記2
ちなみにこの号の「週刊朝日」、「林真理子×津川雅彦」対談の隣は「平幹二朗×平岳大(息子)」対談であった。濃い、濃すぎる……。


☆毎週金曜更新・こちらもよろしく→「私の渡世・食・日記

○お知らせ
ブログランキングに登録。 どうか1日1クリック↓を。
http://blog.with2.net/link.php?198815
ご意見などはこちら→hakuoatsushi@yahoo.co.jp