映画『イントゥ・ザ・ワイルド』

公開中

 あー書こう書こうと思っていたら! 明日から公開の映画『イントゥ・ザ・ワイルド』、これが素晴らしかった……オーバーに聞こえるでしょうが、心震えました。ショーン・ペン監督の、実在の人物をモデルにしたこの人間ドラマを強烈におススメしたい。
 大学を優秀な成績で卒業した途端、自分が生きてきた痕跡をすべて消すような形で失踪した、ひとりの青年。父母の不和という問題で傷ついていた彼は、アメリカを放浪する……。
 一度自分の人生をリセットして、なんて表現が使われることがある。しかし、人生のリセットボタンはファミコンのように容易に押せないものだ。そこを、この主人公はまずやり遂げようとする。可能な限り「サラ」の状態になろうとする。そして彼は、旅をする。
 この主人公・クリストファーは親を、家族をとても愛していた。しかし、父母の仲は完全に冷え切っている。彼は、自分の情動を素直に表せなくなっていた。この打破が、旅だった。
 折々で出会う人々に感じさせられる夫婦の愛や、友愛。自然の美しさや厳しさ。様々なものに、「再会」していく。自分は豊かなものを知っていた。それは、「家族」からしっかりと教えてもらっていたのだ。
 自分の人生から「家族」というものを抜いて人生を再体験してみたら、「家族」とはなんだったのかよく見えてきた。寒さにかじかんだ手が次第に感覚を取戻すように、クリストファーの心にあったものが再び感じられてくる。足元が見えてきた。「生きる」ということを、考えられるようになったきた。だから、進もう。その先に何があるのか。
 148分という長い映画だが、まーったく退屈しなかった。イノセントで聡明、でもムテッポーで危なげな主人公を演じたエミール・ハーシュが格別の存在感。いささかも作為的にならず、「この役に命かけてます」みたいな余計な肩の力入り過ぎ感もなく、大器の演技。これは絶対に映画館で見るべき一本。
 エミール・ハーシュ


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