ふたりの大女優とイ・ビョンホン、そして緒形拳

眞由美近影

 さて、昨日の書き残しから。

 岩下志麻小川眞由美――このブログを好きで読んで下さっている方なら説明不要だろうが、芸歴はゆうに50年を越そうかというベテラン女優だ。私は勝手に、このふたりを日本を代表する「最後のエゴイズム女優」と呼んで畏怖し、崇め、奉っている。
 エゴイズム、という言葉がキツかったら、「マイペース」といいかえてもいい。このへんを語りだすと止まらないので省くが、「自分が自分であること」を最優先させる、そのことにおいて「損得」もなければ、「罪悪感」の微塵も感じさせない最後の女たち、ということだ。「わたしは女優」と啖呵を切ることのできる、そして周囲もそれを認められる、最後の女たちだと思う。
 と、やっぱり前振りが長くなった。そうそう、このふたりとイ・ビョンホンの話。

 あれは2年ほど前……岩下志麻と小川眞由美がそれぞれ「徹子の部屋」出演時、「いかに私がイ・ビョンホンに夢中か」ってなことを延々と語り尽くしていた。あの光景は強烈であった……2年の月日が経とうとも瞼に焼きついて離れない。
「少女のように頬を薔薇色に染めて」
 こんなフレーズを何かで聞いたことがあるが、ま・さ・にそのとおりであった。その姿まさに「きいちのぬりえ」の如く。

携帯の待ち受けにしてるんです!」(岩下志麻さん)
 なんとビョンホン様は上半身裸でした。同じことをオッサンがやったら変質者です。

イーくんって呼んでるのォ。なんて目と歯が綺麗なのかしら……」(小川眞由美さん)
 小川様、「イーくんは絶対に頭の回転が速いはずよ、だってそういう顔立ちだもの」と、人相占い師も真っ青の断言を連呼。すかさず黒柳徹子も「大学院までいかれたそうだもの、優秀よ!」と適切なんだか適当なんだか分からない合いの手を入れてました。
 彼女たちの代表作、『鬼畜』『復讐するは我にあり』や『疑惑』『極道の妻たち』(どうでもいいがタイトルだけで充分恐ろしい)をご覧になった人たちは分かってくれると思うが、この二人が、この有様である。大女優、すっかり骨抜き。ボンレス大女優。 恐るべしイ・ビョンホン……「大女優コロリ」、それがイ・ビョンホン。猫にマタタビ、大女優にイ・ビョンホン
 志麻と眞由美は、「イ・ビョンホン祭り」を見ているのだろうか。


追悼コメント
緒形拳さんの訃報に際し、今日ネタにしたふたりの女優がコメントを発表した。
 さんざんからかっておいて何だが、岩下志麻も小川眞由美も、日本映画史に燦然と大きな業績を残してきたふたりだ。かたや「スター女優」、かたや「華も実もある演技者」として、押しも押されもせぬ地位を築いている。(だから、こちらも迷いなく戯言を書ける。書きたくなる)
 そんな二人は、緒形拳との共演で名作を残している。特に小川のコメントが印象的だった。10月7日の読売新聞より。


 今村昌平監督「復讐するは我にあり」で共演した女優の小川真由美さんは「“がたやん”との共演はとても楽しかった。女優として輝かせてもらいました」と話す。「特に『復讐――』は、お互い役に入りきっていました。撮影後も、がたやんを(主人公の)榎津巌として見ていましたし、がたやんも私を(役の)ハルとして見ていました。それは今でも変わりません。だから、亡くなったと聞いたときは、『私の男、榎津ともう会えないんだ』と、真っ先に思ってしまいました」としんみり語った。

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 岩下志麻は「サンデー毎日」10月26日号にコメントを寄せた。
思い切ってやってみませんか?
そう何度も電話を掛けたのだという。映画『鬼畜』出演に関して、緒形拳は悩んでいた。子供を殺そうとする役を引き受ける逡巡――いろんな方が後押しをされたようだが、岩下志麻もそのひとりだったよう。
この映画で緒形さんは日本アカデミー最優秀主演男優賞を受賞なさり、私は自分のことのように嬉しかった。笑顔がチャーミングで温かなお人柄でした
 4〜5歳上の緒形は逝き、女優は尚揚々と華やいでいる。女は、強い。


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