香川京子さんのこと〜『東南角部屋二階の女』より

表紙は矢野顕子

 本日発売の「CDジャーナル」(音楽出版社)でコラムを書いています。16回目の「ヒロポン映画劇場」、今回は公開中の『東南角部屋二階の女』から、香川京子さんへ捧げるオマージュを書きました。


 香川京子。日本映画の黄金時代を支えた名女優の一人。川本三郎さんのエッセイで知ったことだが、溝口健二小津安二郎成瀬巳喜男黒澤明という四大巨匠の作品にすべて出ているのは、彼女と山田五十鈴だけだという。彼女の資質、個性、そして人柄が、いかに映画界に愛されていたかという証左ではないだろうか。
 『東南……』の香川京子さんの演技――私はこれに、唸った。セリフ術やアクションで見せる演技ではない、「映画女優」としての芝居。言い換えれば、それは「存在感」ということだ。
 映画俳優に最も必要なものは、「放出するものの豊かさ、大きさ」なんだと思う。映画育ちの人だけが持つスケールの大きさ、雄大な存在感。彼女は本作で二回ほど「背中の芝居」をする。これが実にいい。セリフのひとこともない。なのに、様々な気持ちが伝わってくる。溢れ出てくる。こういうのを、巧まざるうまさというのだろうか。

 なんだか最近、チマチマしたせこせこしい芝居を見ることが多かった。その演技の端々から、「うまいでしょ、面白いでしょ」という声が聞こえてくるかのような演技。確かに腕はあるんだろうが、そういった「うるさい」芝居が多かったので(特に三谷幸喜の作品と彼自身の露出に頻出)、香川さんの姿を観て私は、なんだか胸がスーッとしたのだった。
 粗の多い映画だが(西島秀俊加瀬亮、竹花梓演じる若者三人の悩みの描き方が浅薄で既視感が強く、メリハリに欠ける)、香川さんのシーンで随分救われている。まだ渋谷のユーロスペースでやってます。ぜひ香川さんの芝居を、スクリーンで観てほしい。

左は高橋昌也さん。なんだか随分「天本英世」化しているような。


○香川さん近影

8月に川喜多賞を受賞されたときのスナップ。お美しい!


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