『ブーリン家の姉妹』

日本版は立ち位置が違います

 クリオネ、っていますね。精霊のような形をした海のいきもの。精霊見たことないけど。エッチラ・オッチラ漂うさまが愛くるしく、テレビで紹介されるや人気者になった、アレ。
 あのラブリーないきものがエサを捕食するところ、ご覧になったことありますか。
 瞬時にして鬼と化す―――オーバーなようですが、それは凄まじい一瞬です。なんたって、体全体が「口」になってしまうんだもの。体を引き裂くように即時に変態させ、ヤツデのように体全体を大きく開き、近づいたエサをスッポリと咥え込んでしまうその姿! 食べたあとは、また元のラブリーな妖精に戻ります。カワイイ振りしてあの子わりとやるもんだねなどと笑ってはいられません。
 体全体で捕食するというのが……怖い。存在のすべてが、「欲望」と化してしまう恐ろしさ。私は捕食するクリオネを見て、さながら般若のようだと思いました。そしてナタリー・ポートマンは、クリオネです。間違いありません。クリオネのごとく体全体が欲望の塊となり、般若の如き熾烈なパッションをたぎらせるナタリーがこれでもかと暴れまわる、今日公開の映画『ブーリン家の姉妹』を今日はご紹介。
  簡単に言って、王様めぐって貴族の姉妹に「いさかい」が起こるという話です。簡単にポイントを。


1:おねえちゃん=ナタリー・ポートマン
どうしちゃったの、ってなぐらい出世欲満々。自分が美人で男にモテるということを「そこまで分かってなくていいから」ってなぐらい知り尽くしている。苦労知らずで育ちがいいはずなのに何故か「邪魔者は消せ」という哲学を身につけているのも不思議。


2:いもうと=スカーレット・ヨハンソン
「どうしてあの姉でこんな妹が」と全員思うぐらいの心優しい娘。しかし「いいひと」って本当に説明キャプション書きづらいですね。


3:王をたぶらかせ!
揃いも揃って父親も親戚も皆「もっと出世を! もっと財産を!」と浅ましいことこの上ありません。王様が家に遊びに来ることになったパパ、ナタリーに
「気に入られるよう上手くやれよ」
と指図します。
「言われなくても分かってるわ」
ナタリー、正念場です。


4:典型的といえば余りに典型的な展開
ナタリー、「王様なんて大人しい、かしずくような女しか知らないはずよ!」とでも思ったのでしょう。特技の馬術で王様に「ほーら私をつかまえて御覧なさい!」ってな勢いで挑発します。狩りに出た一行でしたが、王様なんと落馬。女の前で怪我をしてプライド痛く傷つきます。ナタリー大失敗。


5:私はただ王様がご心配で……
そこで当然のように看病するのが心優しき妹。常套パターンです。王様簡単にフォールインラブ。「城に来い、私の世話をするのじゃ!」流されるままに運命を受け入れるスカーレット。こういう女が本当は一番強いんですけどね。「私は寂しい。ひとりぼっちだ」とかなんとか、これもありきたりな王の苦悩を吐かれたが最後、「なんてお可哀相な王様」とあっさり心を開きます。


6:幸せってなんだっけ
こんな展開におねえちゃんが黙っているわけはありません。虎視眈々、いろいろあって宮廷に乗り込んできます。もう失敗は繰返しません。精神的に「じらす」というテクニックを駆使して、王の寵愛を妹からかっさらいます。
「こんなにそちはいい女だったかの」
「まあ。でも私の最愛の妹が王様のミストレスですもの。あの子を悲しませるようなマネだけはわたくし絶対に出来ませんわ」とかなんとか。「よくもまあぬけぬけと」あなたはきっと呟くことでしょう。閻魔大王も引っこ抜けきれないほどの大嘘をこれでもかと繰返すナタリー。そしてなんと妹が王の子供を出産した瞬間に「あの子ともう会わないって約束して!」と王に誓わせ、ホヤホヤの赤子もろとも田舎に追放させるのです! 
「どうしてそんな酷いことを、おねえさま!」
「ふざけないで! 思えば今まで……」
ナタリー・ポートマンは妹に対し、その思いをブチまけます。

 
 実際、作中で妹に対し「うらみごと」を吐きつけるシーンは多々あるのですが、それはそれは恐ろしい表情をみせるシーンが一箇所あります。あのときのナタリーは人間ではありませんでした。それは捕食時のクリオネのごとく、般若のごとく。この悪のパッションは見事のひとこと。あの美しい顔が一瞬にして般若のそれに変容します。あえてどことは書きませんが、あの表情を見るだけでも本作を観る価値はあると思います。
 その後、みずからの欲望の大きさに飲み込まれていくナタリーの演技は中々見応えがありました。筋としてはここまで先が読める展開もそうそうありませんが、「鼻持ちならない」という芝居のお手本のようなナタリーのアクションの数々、堪能できることうけあい。たまには最近の映画を紹介してみました。
公式HP http://www.boleyn.jp/


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