『生誕100年 川喜多かしこ展』

生涯を着物で通したことでも有名

 映画ファン、それも古い日本映画好きにおすすめしたい展覧会!
 京橋の国立近代美術館・フィルムセンターで12月26日までやっている。入場料は200円という入りやすさ、行かない手はない。


川喜多かしこさんって誰!?」という人が殆どだと思う。
「映画で世界と日本を結んだ女性」というサブタイトルがつけられてるんですが、まさにその通り。海外の優れた作品をドンドン輸入・配給し(あの『天井桟敷の人々』『第三の男』など数限りない!)、また同時に優れた日本映画をドンドン海外の人々に紹介された方だ。彼女については後に書くけれど、私的な注目ポイントを先に! 様々な監督や俳優からの手紙やハガキなども展示されてるんだが……これが見るだに楽しいったらないんですよ。


しかし……直筆、ってのは性格が出ますねえ。稲垣浩木下恵介五所平之助、というそうそうたる面々の手紙が展示されてますが、と思わずガラスケースの前で「ごもっとも!」と笑ってしまった。
 稲垣監督は当然のように毛筆、それもダイナミックで骨太な字。これぞ無法松。
 木下監督は便箋にペン字でギーッチリ書きこまれてるんだな、やっぱり。丁寧だけど、やや神経質そうな字体で、ちょっと全体的に右上がりになってるのが、「らしい」。
 五所監督は和紙に小筆のサラサラ書体、柳の葉が舞うかのような風情。あはは、これまた「やっぱり」と呟いてしまう。なんだか「らしく」ありませんか? 井上靖文学を愛され、俳人としても活躍されたというのが「いかにも」という感じの字体だった。


 その他ハガキもいいですよー、市川崑高峰三枝子緒形拳笠智衆の各氏の挨拶状が展示されてますが、もう読むだに嬉しくなっちゃう。
 市川監督、もうハガキから「市川フォント」(クレジットでよく使われた大きめの明朝のこと)だもの。ところどころ色が違うのも映画と同じ。ああ、欲しい! 人のハガキを欲しくなったのは初めてだ。
 緒形さんは朴訥にして豪胆な筆致、高峰さんはイラストで大きな真紅のバラがドーンと中央に、笠さんはその文面がまさに人柄! これらはぜひ実際に読んでみてほしい。
 なんだか文字を見ただけでジーンとしてしまった。太い、やわらかな流木のようだった。枯れているのに、不思議に暖かいような、そんな字だった。


 川喜多さんが最初に買い付けた映画は『制服の処女』(日本公開1933年、昭和8年!)というから、古い。ちょっと検索したら、素敵に彼女の業績を紹介しているものがあった。「バラエティ・ジャパン」このニュースを参照してほしい。ということは彼女って『第三の男』をはじめて観た日本人、ということになるのだろうか。興奮しただろうなあ!
 そうそう、彼女がテレビインタビューを受けているVTRが場内で流されている。ぜひぜひ、これを観てほしい。全部で30分ぐらい。なんとも優雅で上品なその語り口に、私は魅了された。そして表情、その福々しい笑顔は世界中から愛されたのも納得の穏やかさ。仏性、というものがにじみ出ている。
 こんな人に、会ってみたかった。


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