思わぬ儲けもの!〜今日公開の『プライド』・2


さて昨日からの続き、
この作品、脇役のキャスティングが
異常に素晴らしい一作でもありました。
すべて適役。文句なし。ちょっとそれぞれの印象メモを
残しておきたいと思います。


1:レコード会社の若社長にして旧財閥の跡取り


及川光博」(神野隆)
自分のやるべきことを分かっている人はいいですね。
少女漫画の男役をやる人がすべきことはひとつ。
「セックスの匂いをさせない」
これだけです。突っ込んで書くなら、チンチンがついているように
思わせない。これ。もっと突っ込むと、宝塚の男役に徹する。
ここです。女優さんが新派の『婦系図』とか泉鏡花
ヒロインを演じるのと同じベクトルの作業。
こーいうことを、ミッチーは「無意識」に出来ている。


「いつまでもオールバックの生え際が後退しない」
これも成功ポイントですね。「黒シャツ+ネクタイ」なのに
さほど安く、ホスト感が漂わないのも
この手の役を独占状態にしているポイントかと。
将来、ひょっとしたら「岡田真澄」みたいになるかも。
ミスコンの司会が似合いそうです。
しかしどうでもいいですが、一条先生「財閥」って好きだねえ……。


2:銀座のクラブのママ(作曲家の母)

高島礼子」(池之端菜津子)

この方も自分のやるべきことをよーく分かっています。
漫画の中の女、というのは女ではありません。
歌舞伎とか新派の女に近い。
女優さんがこの手の役を演じるときは、
男の理想、男が見たくない女の部分を
噛み砕いて、さらに実際の女の精神やらを含めて、
再構築としての「女」をつくりあげるという作業をしなくてはなりません。
そういう仕事をキッチリなさってました。
「え? 安い日本酒のCMの女とさして変わらないように見えたけど……」
そんなことは絶対に思っちゃいけませんよ。


富豪娘との恋愛に煮え切らない息子に対して名セリフ。
「20歳も過ぎて、好きな女の世話を親にやらせるつもりッ?」
啖呵といえば礼子。礼子といえば啖呵。一日一啖呵。すっきりしそうだなあ。


3:若社長の秘書・最近男とうまくいってなくてイライラしてると陰口を叩かれる

新山千春」(有森)

「この子見てるとね、なんだかイライラするのよッ!」
試写室中の「よくぞ言った!」という喝采が聞こえるかのようでした。
惚れちゃってる若社長に
「お願いですぅ、会わせてください! 直接お話したいんですぅ」
と子犬のような目で懇願する貧娘。だからアポ取らないと、私が伝えるから、と
何度も説明しても「でもぉ」と食い下がる女にひとこと。キレて当然。
全編通じて非常にキレのあるいい演技でした。
ママタレントよりも、こういう彼女が観たいなあ。


4:貧娘の母親・アル中の中年ホステス

キムラ緑子

「あんたなんか生むんじゃなかったよぉ!」
平成の御世でここまで見事な「スベタ」をスクリーンで観られるとは……。
なんせ登場シーンが全部「へべれけ」です。画面から安焼酎の臭いがします。
あまりの愚行にキレた娘が「死ねええええ!」と刃物もって殺そうとしますが、
その追っかけられるときの表情が最高でした。
恐怖の余り「由利徹」みたいな顔になってます。ひきつるオシャマンベ。
このときの萌の顔もイってます。ここでは私以外の人からも
笑いが起こってました。試写室では非常に珍しい出来事です。


5:富豪娘の先生・かつてはプリマを目指していた

由紀さおり」(山本教授)

私は、かつてのNHKの朝ドラ『チョッちゃん』以来
彼女の演技者としての溢れる資質に注目していました。
今回も無駄なく的確な演技。
ただ、もっともっと演じがいのある役をやらせたい!
もっと女の業がにじむような、積年の感情をたぎらせるような。


以上を含め、中々に見どころのある作品でした。
私、漫画は読んでいないのですが、カット割りやセリフなど
かなりの勢いでそのままだそうですよ。
よろしければ是非。長々失礼致しました。


○追記1:ステファニー
有名な歌手なんだそうですね、私はまったく存じ上げませんでしたが。
この方、今回が「演技初めて」なんだそう。
パンフでそう読んだとき「ひえええ悪い予感」と思いましたが、
深窓の令嬢、という設定が生きた。棒読みで生硬な演技が、
人前で感情を露わにすることなく生きてきたお嬢さんの感じに
ギリギリ重なってさほど気になりませんでした。


○追記2
常々思っていたことだけれど……日本人にはドレス、
それもフリルが決定的に似合わないと思う。
骨格の違い、肉体の凹凸の立体感、そして肌の黄色が
絶対的な邪魔をするんですね、似合わないというよりも、「安く」なる。


そこを、この監督は分かっていると思う。
二人がはじめて対決するコンクールのシーンで、
ステファニーは見事な総フリルのロングドレスを着て登場します。その存在感!
そしてその次、満島ひかりの登場。
スレンダーを悪く強調するような、ストーンとしたワンピースのような衣装。
明らかに、見栄えがしない。ドレスが似合わない。
しかしここで、鮮やかに生まれ持ったものの違いが
コントラストとして表現される。
「でも、私には実力と執念があるのよ」という萌の気概。
そこに生まれる対決のドラマ、その情念。
一見フツーの衣装に見えて、きちんと計算の感じられる衣装の仕事でした。


○蛇足3
ただ、後のほうのシーンで
「私は歌の才能に溢れているの! 歌うことが楽しくて仕方ないの!」
と、満島ひかりが銀座のクラブで熱唱するシーンがあるんですね。
その際に着ているものが私にはどうみても
「湯あみ着」に見えて仕方なかった……。
そこまでせんでも、と思った次第です。
さて満島ひかりさんにまったく触れていませんが……思うだに
「よくきばらはった」という思いでいっぱいです。
しかしあそこまで存分にリアルにやってしまうのも
どうなのか……「桃井かおりさんが悪女役をやる」というのと
違うと思うんですね。実際と混同してしまうぐらい
立派に演じきっていたのは事実なんですが。
女優って女優を確立する以前にハマった役に出会うのは
危険なんです。そのへんは、またジックリ。


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