浅草新春歌舞伎より〜杵屋巳津也

27日まで

最近、とみに
「歌舞伎みたいんだよ」
歌舞伎座、連れてってよ」
そんなとお誘いがまあ多いこと。
(私は学生時代、国立劇場の歌舞伎養成所なんかに
首を突っ込んでたことがあるので、
友人から歌舞伎のことを訊ねられることが多いのだ)


みなさん。
歌舞伎座は来年まであるんです
しかも4月まで。16ヶ月「さよなら興行」やるんだから。
来月壊されるぐらいの勢いで思っている人、
多いみたいなんですね。
焦らなくても大丈夫。まあ、チケットは
随分取りにくいみたいですけれども。
さて、今回は歌舞伎座ではなく、浅草公会堂にいってきました。
21日、浅草新春歌舞伎夜の部からのメモです。


お目当ては、中村七之助
日舞最大の名曲にして大曲のひとつ、長唄京鹿子娘道成寺』を踊っています。
いつだったか……『紅葉狩』の侍女・野菊を観て以来ファンなんだなあ。
もちろん写真でしか知らないけれど、
「若き日の玉三郎みたいだ!」と出の瞬間感じたんですね。
分かる人にしか分からない表現は好きじゃないけれど、
「目頭にアイラインを入れる前の玉三郎
こう書けば、「ああ、あの時代の!」と思ってくれる人、多いんじゃないだろうか。
野辺の花のような素直な美しさに、巧まざる素直な踊り。
私はいっぺんで惹きつけられた。


といっても、今日は道成寺の感想ではなく。
(もう書いたんだけれど、あんまりにも長いので)
私はこの『道成寺』って、長唄が「いのち」だと思っているんですね。
踊りを生かすも殺すも、唄次第。
「花のほかには松ばかり」
という詞章からはじまるんですが、ここが成功すれば
半分成功といっていいと思っている。
幕が下りて広がる春の青空、一面の桜。
そこに澄み渡る長唄の第一声が、この踊りの「キモ」だ。
今回の長唄立方(リードヴォーカル、と思ってください)が大変印象的だった。
彼のことを、書きとめておきたい。


杵屋巳津也。
いやーーーーーーーー不勉強だった。知らなかった。
いい声だ。堪能した。
先に書いた出だしではそれほど思わなかったものの、
歌うにつれ「ほぐれて」くるのか、
これまた長唄が「いのち」である「恋の手習」の段では、
久しぶりにウットリさせられた。


「ふっつり悋気せまいぞと たしなんでみても」
この最後の「も」の母音、「お」が「ぉ」となって
スーーーッとディクレッシェンドしていくところで生まれる
生理的な快さはどうだろう!
唄が音楽となって天に消えていくのを体に感じる。
この種の幸福感を劇場で味わうのは久しぶり。


あの繊細な美感に、骨太さ、堅牢な構成力、
そして音程の安定感が加わったら……うん、大器の予感。
いつか彼の『鷺娘』を聴いてみたい。


○付記
おくりびと』がアカデミー賞外国語映画賞のノミネートに。
新聞に主演の本木雅弘のファックスが載っていたが、その達筆ぶりに驚く。
芸能界の能書家といえば佐久間良子だったが……本木も相当なものでは!?


17日更新・こちらもよろしく→「私の渡世・食・日記

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