心を打つ鈴木砂羽 渾身の名演!

鈴木砂羽

 こんな素晴らしいものをタダで観ていいものだろうか!
 テレビにそう思わされることは少ない。だが、私はそれほどまでにいい芝居を観たという充足感に満たされている。
 朝の連続テレビ小説『だんだん』、今日の鈴木砂羽の演技に心からの喝采をおくりたい。その純度、密度の濃い芝居は迫真にしてあざやか。思わず、朝ごはんの支度を止めて見入った人は多かったのではないだろうか。
 と、ひとりで感激しててもしょーがない。簡単に状況を説明してみましょう。



1:吉田栄作石田ひかりは元・恋人同士。双子までもうけるが、家の事情で引き裂かれる。双子は、栄作とひかりで一人ずつ引き取る(それがマナカナ)。


2:傷心の子連れ栄作と結婚したのが鈴木砂羽。栄作とひかりの子を慈しんで育てる。


3:それから18年後、ひかりと栄作、運命の再会。


4:栄作、封印してあった気持ちが解かれ始める。そんな折、ひかりに仕事上のハプニング。よしゃいいのに事あるごとに栄作に相談をしたりする。栄作も相談に乗っちゃうんだなこれが……。


 折々で、夫の心の不在を感じてしまう妻。そして、ついに心を決める。ひかり演じる真喜子のもとを、砂羽演じる嘉子が訪れる。それが今日の話。
 夏の祇園の町屋の二階、ふたりの女が対峙する。
 嘉子はきかれるでもなく、話し出す。


 20年以上も、夫と一緒に過ごしてきました。あの人の思いは、語られなくても分かります。あの人は今、とても苦しんでいる。あなたへの思いをどうしたらいいのか……。
 ――心の奥でいまだつながっているふたり、その絆を痛感する妻。
 家族は最初からあるもんじゃない、みんなで作っていくんだ……姑はそういうけれど、20年かけて作っても、あなたとあの人が過ごして子までなした1年半には、勝てない。私は離婚します。
「心が、よそを向いている人のそばにいるのは……つらすぎます」
 このクライマックスのセリフまで、ほぼモノローグのひとり芝居。約5分間にも及ぶアクションを、彼女は見事に表現してみせた。


 演歌な内容である。凡庸な役者なら、クサく、類型的に仕上げてしまうだろう。そこを、鈴木砂羽は抑えに抑えた。うらみごとでもない、あてつけでもない。けれどやはり、思いがこぼれる。いわずにはおれない。かたをつけるためにも。
「あなたは愛に、覚悟ができていますか?」
 そう、妻は訊きたかったのだ。恋人同士のような純粋な、しかし無責任な心のやり取りを無意識にするふたりが、許せない。けれど、泣きわめくことも、責めることもできない。なぜなら、私は夫を愛しているから。彼の望むようにさせてあげたい。もちろん、引き裂かれるぐらい哀しい。だから、すべては、私が飲み込んでしまう。最後に、あなたに問おう。あなたは、愛することに覚悟はできているのですか―――。
 覚悟を決めた女の、純粋な“とはずがたり”に、石田ひかりはひるみ、言葉をつぐむしかなかった。鈴木砂羽、入魂の演技であったと思う。


○追記
この芝居をみて、向田邦子さんの名作ドラマ『阿修羅のごとく』(1979)を思い出された人、結構いたんじゃないだろうか。そう、長女である加藤治子の不倫相手・菅原謙二の奥さんである三条美紀のセリフだ。はっきり覚えていないが、「ひとりでいるよりも、ふたりでいるのに寂しいほうが、よっぽどつらいわ」とかなんとか。あれも名シーンだったなあ。


14日更新「バレンタインにイクラどんぶり・こちらもよろしく→「私の渡世・食・日記

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