『つばさ』から思う朝ドラ小論・もっと受難を!

『つばさ』一家

 まさにこれぞ「正調・朝の連続テレビ小説」ってな感じですね、開始2週目の『つばさ』。
○ところ=「小江戸・川越」
○舞台=老舗の和菓子屋さん
○ヒロイン=新人女優、女将=大女優
 このへんの超・安定感あふれる雰囲気を、「今は」、楽しめる。楽しんでいる。


 しかしいきなりミソつけるわけじゃないんですが……ヒロインが舞台となる「和菓子屋の実の娘」という設定に、この先不安あり。前回の『だんだん』のときにも思ったが、朝ドラファンというのは基本、
「1:泣きたい→2:泣かされたい→3:いきどおりたい」
 というスリー・ステップを待ちわびているのだと思う。そのへんを『だんだん』は満たしてくれなかった(なんたってヒロイン、悩まないんだもの。すぐ問題解決。親に大反対されたバンドも突如解散。ヒロインが追う夢、二転三転。恋の諦めっぷりもマッハ級。役者に感情移入するいとまを与えてくれない一作であった)。
 そのステップは朝ドラの古典傑作『おしん』を例にするとよーく分かる。


1:泣きたい
ヒロインがどーしようもなくつらい目に合う。
そしてこの「つらい目」というのは、「いわれのない不当なできごと」でなければならない。
 おしんなら、身売り。そして底意地の悪い人達によるいじめ、バッシング。先輩からの壮絶な嫌がらせ、姑からのイビリ、周囲からのヤッカミ。テレビの前のみんなもう自己投影しちゃって大変。
「そうそう、分かるわあ……!」
 いわゆる「紅涙をしぼる」ってやつですね。なんたってあの頃は「身売り」でさえ実体験として共感できる視聴者世代までいたんだもの。「自分もこの苦労、分かる!」という共感。いや、「ヒロインの苦労は私が一番分かる!」とまで感じさせれば最大の成功。それが朝ドラ。身近なフンマンを涙に昇華させたい、そんな「泣きたい」気持ちを満たさせる、それがヒット朝ドラ。


2:泣かされたい
その苦境の中を「おら、負けね!」と立ち直り、また挫け、歩み続ける。このヒロインが水前寺清子状態となって「三歩進んで二歩下がる」そのリフレインに視聴者は「泣かされる」わけですね。
「なんて偉いの○○!」
 ○○の中に入るのはあなたの好きだったヒロインをどうぞ。


3:いきいどおりたい
これは単純、「こんないい子になんてことを!」とヒロインの庇護者になりたいんですね、潜在的タニマチ欲求。「私がついたからには安心して!」的救護心をかきたてたら、朝ドラはもはや社会現象。だってなあ「あのイジワルな姑を出さないで!」「川野太郎を殺すなんてひどい!」投書(今ならメールか)殺到とか起こっちゃうんだもんなあ。あ、後者の話は『澪つくし』ですよ分かります?
 と、何をいきなり朝の9時から考察しているんでしょう私は……いや記事の文字数がまだ出ないから暇で……って関係者しか分からないようなことを。


 つまり!
 今回って設定が実家で、対峙する人間も全員家族なんですね。家族のぶつかりあいって、どこかやっぱり……決定的ではないというか、「朝ドラ」世界内では「いつか判りあえんでしょ」という想定内でしかなく。朝ドラ的親子関係の中ででは「いわれのない不当なこと」、起こらないもんなあ。
 そういうことは製作側も重々承知だろうから、「店の借金」「子供を捨て出奔した母(高畑淳子)の突然の帰宅」というアクシデントを入れてきてるが、これがまあ実にアッケラカンとしたもんで。
「みんなで借金を頑張って返そう、OH!」
 ってな感じでサッサと住み慣れた土蔵造りの家から引越し。ホントにアッサリしてた。銀行員も実にいいひとだし、西城秀樹演ずる謎めいた金持ちも実にサラリとした取立て。日清ヘルシーリセッタのごとき人々。
 そして母と家族の確執もしかり。
「お母さん、何をいまさら!」
 ってな感じもサッパリと霧消。これで随分引っ張るのかと思いきや……


多部未華子の輝き

 
 しかしこの「サッパリ・アッサリ感」が、不思議にヒロイン・多部未華子のキャラクターと合うんだなあ。「この子なら確かに(本当は傷ついて悩み苦しんでいても)根に持たず、前をみつめそう」と思わせる何かを持っている。その強い瞳が、「つまらないこと考えていられないよ!」とひたむきに輝く。それを観ているだけで、15分もってしまう。
 いいキャラクターをNHKはつかまえた。あの目の強さに見合う「ドラマ的苦難」を、どうか彼女に与えてほしい。
 うーーーーん……彼女が単身、京都の和菓子屋に修行にいくとかしてくんないかなあ。ファンを身もだえさせる先のスリーステップ、その機動力となる悪意は「近しい他人」から与えられるときが最も強烈だ。そういった悪意が最終的に愛に変わる瞬間のカタルシスこそが、ファンが渇望している「正調・朝ドラエクスタシー」だと思う。
 最後にひとこと。今日はこれが書きたかっただけなんだが……多部未華子ちゃん、時折「石川遼くん」に見えてしまうのは私だけだろうか。


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