『赤い城、黒い砂』に対する正直すぎる損な感想

26日まで

 いいねぇ、黒木メイサ! 思わず膝を打っちゃいましたよ。
 まさに主役の華、出てくるだけで舞台がパーッと明るくなるよう。観てまいりました日生劇場四月公演、まずちょっと粗筋をご紹介。15日(水)の感想を。

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 ヒジョーにわかりやすい話。
1:A国を攻めるB国の男ふたり、ジンク(愛之助)とカタリ(獅童)。
2:ジンクとカタリは親友にしてB国の英雄。A国の王女がメイサ。超強くてふたりと闘う。
3:ジンクは「英雄はふたりはいらない」と戦争の機会にカタリを殺そうとする。
4:親友と思っていたカタリは大ショック……

 
 黒木メイサのいいところは、課題点がおのずと浮かぶところだ。
「ああっ、ここがもー少しこうならっ!」
 と観るものに思わせる。それはマイナスではなく、知らずのうちに客の歓心を集めている証拠。そしてさらにいえば、「ちょっと訓練すれば出来るはず」という可能性を感じさせていればこそなのだ。そーいう資質のきらめきを、私は彼女に感じた。絶対にご本人読まないでしょうから無意味なんだが、以下感じたままを。
 まず発声に関して。強いトーンの声、命令口調や激昂する台詞における声の割れ。割れるように叫ぶ、というのは演技上の計算だが、強く発声して割れてしまうというのはセリフ術の未熟である。またセリフとしての叫びも、舞台全幕において1、2回程度にしなければ効果的に聞こえない。


 アクションで精一杯だったのかもしれないが(もちろん、稽古日数が少ないのだろう)、セリフの抑揚のパターンが少なすぎる。若さゆえの引き出しの少なさ、で片付けてはいけない。そこは演者の責任でもあるが、演出家の技量だ。これ、大体がシェークスピアをベースにした芝居なんですね。そういった大仰なセリフは、セリフの「音楽性」がいのちでもある。と、グダグダ偉そうですね……すいません。でもねえ、私は黒木メイサに俳優としての演技的敏捷性を感じているから、こんなに色々思ってしまう。余計なお世話をいいたくなってしまうのだ。
 感情としてのセリフの発露と、セリフ術としての発声とフレージング・テクニックを融合させる。いい演出家につけば、そういうことも出来るようになるだろうな、と予感させる黒木メイサの芝居であった。
 最後にひとつ。このひとお姫さまの役なんだが、そのノーブルでディグニティある雰囲気は恵まれた天与の素質というほかない。

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 片岡愛之助、死に際の目をむく芝居を中々に魅せる。手塚治虫漫画に出てくる「ランプ」のごときヒールの魅力。この人とメイサの二人芝居は王侯ドラマらしい格と、いい意味での仰々しさがあって見応え存分。


 参考資料:ランプ



片岡愛之助


 狂言回し的な中嶋しゅう、という役者に不思議な魅力を感じ、印象的。クドくもクサくもやってないのに、悪とアクが確かに感じられる面白さ。


 そして中村獅童……。うーーーーん、書かなきゃいいんですけどね。でも、誰も本当のことを書かない。いや、本当に自分の思ったことを書かない。偉い人も書かない。だから、書きたい。



 よくない。いけない。「くすぐり」が、いけない。
 芝居の最中、変に「くすぐり」(軽いギャグというかアドリブのボケ)をいれること夥しい。くすぐり自体がいけないわけではない。何がいけないって、このひとは自分の役を「主」でも「脇」とも決めあぐめている。そこが、よろしくない。
 くすぐりは2種類しかない。「主役の遊び」か「それを受ける脇役のリアクション」。この、どちらにもなっていないところが、痛い。
 主役の遊び、これは中村勘三郎藤山直美を例に出せば分かるだろう。シン、つまり座長がやってサマになる筋のアドリブ。脇役ならば、もたいまさこ常田富士男のような俳優を思い出してほしい。彼らが主役の芝居のあとにみせる、ちょっとした表情や呟きなどがもたらすおかしみ。基本的にこのどちらだ。
 今回は三人が柱、ということもあって、立ち位置を決めかねるのも分かる。公平に出番分量があるような「遠慮と配慮」がプンプン香る構成だったのも、分かる。
 けれどねえ、役者だもの、「俺が主役だ!」ぐらいの気概で演じちゃってもいいんじゃないの? アドリブもくすぐりも、そこの立ち位置が据わってないから不発弾になってしまう。
 このかたの本領、つまり「ニン」は、「真っ当な小市民」にあると思っている。朴訥で気のいい男、育ちのいい青年が、ヒョンなことで不当な目にあう、不遇を味わう、というのが一番輝く役どころ。今回のような猛々しい役は、損だ。
 って、こんなこと頼まれもしないのに書いてる自分が一番損だ。阿呆ですね。


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