小村雪岱の古びない美しさ +『グラン・トリノ』公開

好きなんだなこの雑誌

 表紙に「小村雪岱」の名を見つけて、瞬間的に手に取った。
 コムラ・セッタイ――ずーっと気になっていた名前。今風にいえば、鬼才のグラフィック・デザイナー。泉鏡花や、鏑木清方にも認められたその人。
 今発売中の『暮らしの手帖』に、彼の8ページ特集が組まれている。


 昔、歌舞伎や新派が好きでドップリハマっていたころに、何かの雑誌で「泉鏡花の名作、『日本橋』の装丁をされた人」ということを、まず知った。
 そののち坂東玉三郎の言葉を読んで、俄然興味が高まった。
「我々女形は美しい姿を創造する上で、やはり鏑木清方岩田専太郎小村雪岱先生といった方々の絵を勉強しなければいけません」
 出典は残念ながら覚えていないが、ほぼ発言の内容に間違いはないと思う。


 この人の画(え)の持つ、古びないモダンさは何といったらいいのだろう。思いっきり抽象的なんだけど……市川崑の『股旅』を観たときに感じたような「新しさ」を感じる。
「サイレンスの中の息づかい」みたいなものが、彼の絵からは迫り来る。日本画らしく、バチッと構図は端正に決まっているんだけど、何かとても動的。エドワード・ホッパーの絵を見たときにも同じような気持ちになった。とても静謐なのに、描かれている人々から感じる不思議な胸騒ぎ。雪岱もホッパーも、絵画の中の人は無表情、もしくは顔すら描かれていないというのに。


 今回の『暮らしの手帖』では彼の魅力を、「繊細な筆致に加え、劇的な転調や大胆に余白を取り込んだ前衛的でモダンな挿絵」と、評している(署名原稿にあらず。レベル高いなあ……おみそれしました)。
 確かに。大胆な余白ねえ……そう、確かにこの人の一部の作品は「スカ感」が見事。「白い影絵」のような鮮やかさは、この人独自のものだ。
 そうかと思うと、今回紹介されている装丁の数々の色どり美しいこと。童話的で、静謐なファンタジーに溢れていて……って、駄文をつらつら書いても仕方ない。
 日本画や歌舞伎・新派などが好きな方は、ご覧になって損はないですよ。着物の図案や舞台美術などを手がけられたことも初めて知った。



○追記
どうでもいいが、「ハマっていたころに」で「変換」を押したら、「イタコ路」となって驚く。私のふだんの文章って一体……。



○付記
漠然と考えていることなんですが……美しいなあ、素晴らしいなあと感動する絵やら器やらありますよね。そういうもので、(買える買えないは別として)「ああ、ほしい!」と切望してしまうものと、「あくまで鑑賞できればそれでいい」というものと、パックリふたつに私は分かれてしまう。完全に。どちらも大好きなんだけれども。すべてほしい、と思うタイプの方もあるでしょうが。この雪岱なんかは「欲しい!」と思ってしまうタイプ。所有欲を刺激するというのは、どーいうことなのだろう。


○追記2
 今日からいよいよ『グラン・トリノ』公開! 
いやータイトルを打っただけでなんか再び……ジンとしてしまう私です。じんわり涙まで浮かんできやがって。やですねードンドン涙モロくなってって、そんなイージーなお涙頂戴モノじゃないですよ勿論。このトレーラーだとそう思えるかもですが。



硫黄島からの手紙』『チェンジリング』そして『グラン・トリノ』……イーストウッドは不幸だ。あまりにも素晴らしすぎて、もう死ななければ皆、彼を正当に評価できないのだと思う。
 必見の傑作! 私は好き過ぎて感情的になっている。これを『週刊新潮』でちょいバカにした白井佳夫を許せないほどに。なーんちゃって。とにかく、多くの人に観てほしい一作です。








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