NHKドラマ 『遥かなる絆』

鈴木杏

 ドラマ『遥かなる絆』を楽しみに観ている。
 NHKで土曜日に放送されている全6回のシリーズ、ただいま3回目。
 テーマは、戦争と人間、そして国家と人間。その話の軸は中国残留孤児の父と、現代の中国へ留学するその娘。

(番組公式HP→こちら


 ふたりの役者の、まっすぐで、きれいな目に惹きつけられる。
 残留孤児である城戸幹の役、彼の青年期を演じるグレゴリー・ウォン。そして長じた城戸の娘を演じる主人公、鈴木杏
 まずグレゴリー、彼がいーんですよ。このひとには、いい意味で計算がない。演じる、というよりも役にシンクロしてなりきってしまうようなタイプの芝居。さらには、その表情の無垢なこと。
  俳優は、自分が今「どう見えているか」ということを気にするタイプと、そうでないタイプに分けられると思っている。どっちがいい・悪いっていうんじゃないんですけどね。
 前者の典型を挙げるとすれば、イ・ビョンホンのスマイルや上目遣いなど。自分の魅力を知り尽くしてるんでしょうね、あのかたは国境を越えた「長谷川一夫」の正当な後継だとすら思う。って、あんま彼の映画きちんと観てないんだけれども。
 グレゴリー・ウォンの良さは、残留孤児であるゆえの降るような辛苦を、「ああ、このひとならそれを怨みにせず、強い精神力で浄化できるであろう、つらくとも」と自然思わせる雰囲気、資質のようなものがナチュラルにあること。それはスター性、ということに他ならない。




 そして鈴木杏。このひとの凄さは、その表情の目まぐるしい変化(へんげ)にある。誤解を恐れず書くけれど、ドーにもつまらない表情(かお)してるときもあるんですよ。
 それが思いもよらぬアクシデントに際して、一変する。他人の悪意を受けたとき、もしくは優しさにフッと触れたときの変わりよう、そのドラマティックなこと!
 あと、このひとは「ほうけた」ような表情が絵になる。女優さんとして、茫然としているときに様になるというのは優れた資質なのだ。
 これは実話なのだそう。私は観ていないのだけれど『大地の子』とはそこが決定的に違う、と演出家の岡崎栄氏は書いている。


 現代の中国に留学した娘は、授業中にクラスメートから問われる。
「侵略した日本が発展を続けるのが許せない」
「日本人は侵略戦争を教えないのは本当か」
 さらには、仲良くしていた中国人からもいわれてしまう。
「あなたは自分の国の歴史も、中国の歴史も知らなすぎる!」
 娘は、思いもよらぬ感情の砲火に当惑する。そしてある日、ふと思う。
――――父は、もっと昔に、どんな思いで、どんな目にあったのだろう。


 そこから娘は、父の昔の日記を紐解く。すべて漢字の、中国語。当たり前なんだが、日本人と思っていた父は、中国人として、中国語しか知らずに育ったのだ。日記を読むうちに、今、自分が立っている「現在」と地続きである「過去」が確かにつながっていく。その間に現と存在し続ける「歴史」が、昨日までは無関心だった「歴史」が、急に切実なものとして我が身に迫りくる。
 その戸惑いと、興味がない交ぜになった複雑な感情を、鈴木杏の表情が実によくあらわしている。
 あと3回ある。じっくりと色々思いめぐらせつつ、鑑賞したい。
 


○追記
 日本でもいまだに、「あの芸能人、名前変えてるけど在日なんだって」と噂する人がいる。たくさんいる。私、ビーックリしてしまうんだが……私の同世代でも結構いるんだこれが。それが、当の芸能関係者や編集者とかなんだから、あきれるというか……絶句してしまう。
 私は今日の3回目の放送で、残留孤児の幹が中国のクラスメートに「日本人のクセに!」と罵られる姿をみて、「歌手の○○は……」と声をひそめる「彼ら」が重なった。
 絶対に「彼ら」は、このドラマを見ても自分を重ねないだろうけれど。



○くっだらない追記

 いや……なんか珍しく今回真面目な内容なので、ここでやめときゃいーんですが、やっぱり書いておかずにいられない。主演の孤児青年の義母役、中国の貧しい農家の心優しき女性という役なんですね。時代はもちろん太平洋戦争後なわけです。それがですね……もう……まぁーキレーな眉で、吉川康雄先生が整えられたかのよう。見るたびに激しい違和感に襲われてしまうのは私だけか!? 肌も超マット。髪と衣装だけがボロボロ。うーん……やっぱ「望月優子」みたいな人に演じてほしいじゃないか。細かいことですが、そーいうところは大事だと思う。





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