甘い瘴気――クチナシ連想



 この時期に夜道を歩いていると、時折闇からこぼれてくるように匂う花がある。少しぬるいような風が穏やかに吹く日に強く香る、クチナシの花。香るといっても、風薫るといった言葉に感じられる爽やかさとは程遠い。まるで辺りの空気を焚き染めるかのような、重たい甘さがクチナシの花にはある。どこか魔的で、からみつくような香り。甘い瘴気、そんなイメージを私はクチナシの花に感じる。


「薄月夜 花くちなしの 匂いけり」  子規


 甘い香りに似つかわしく、この花は果実のように枯れていく。清純に真白く咲き始めて、次第に黄味を帯び朽ち果ててゆく。熟れた果実がはじけて腐るかのように。




 伝説的なジャズ・シンガーであるビリー・ホリデイ。彼女はよく、クチナシの花をステージ用の髪飾りにしていたという。実際そういった写真も残っているのだけれど、あの強い匂いを鼻の近くに刺して歌えた、というのが少し信じ難い。鼻が慣れる香水の類いと生花は違う。生花は鼻孔をくすぐるように香ることがある。クチナシの花を模したコサージュだったのではないだろうか。
 彼女は精神的に不安定で、酒とドラッグに溺れ、朽ち果てるように死んだ。




Billy Holiday


 マーク・ジェイコブスの香水にこの花をメインにしたものがある。華やかで甘いトップノートは香水界の傑作だと思う。ラストにかけて爽やかに変香するように調整されているので、クチナシの持つ重たい甘さとは無縁だ。興味のある方はぜひ試してみてほしい。




なんかこんな日もあります。



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