『十二夜』感想・その2

 尾上菊之助、立役もいいんだこれが。


 それがなあ。もったいないなあ。
 私は今回、この人の資質に唸った。声よし、姿よし、踊りよし。さらには口跡もいい。これで女形に専念してくれたら、歌舞伎の未来は明るい。そこまで思う。


 ああ、真女形だったらなあ!


 しかし当人、まったくその気はないだろう。立役の芸域を広げることに興味ありそうだし。昨日もあれこれ書いたが、この人で観たい娘役、姫などいくつも思い浮かぶ。さらには、玉三郎の新派ものだって引き継げる可能性を感じる……と、いつまで書いても詮無いこと。
 新橋演舞場・六月大歌舞伎、『十二夜』。昨日から書いてますが、今日はザッとキャスト雑感をメモ羅列。




中村錦之助
 好きな役者なんで悪口書きたくないが……ミスキャストだった。冒頭、ひとり芝居があるんですね。結構な長ゼリフだが、こなし切れていない。いわゆる「うたいゼリフ」といのうか、音楽的に処理しなくてはいけないところ。
 イントロなんだもの、ここで異空間に客を誘(いざな)わなければいけない。
 芝居がセットに負けている。


市川亀治郎
 私、この方のことを「二階の京蔵」と秘かに呼んでいる。これが分かる人は通です。いやー似てるんだわ、ちょっと上目遣いに悪い表情するところなんかそっくり。
 悪知恵の働く姫付き女中という役なんですが……もうやりたい放題。アバズレの極みという芝居。お客さんは大喜び。
 最初は「やりすぎだー! チャリにもほどがある!」と憤ってしまったが……見てるうち「これもありか」と思わされた。私の負けだ。
 こーいう「あちき芸者にあこがれてんのヨォ」みたいな変わった女中もお城に一人ぐらいいたかもしれない。笄(こうがい)刺した頭が、正月の「出」の芸者に見えてくる。それじゃいかんのだが、蜷川さんがいいのだからしょうがない。
 将来、この人の米八、菊之助の仇吉で『梅ごよみ』なんか上演されるかもしれない。



 まあ面白いのは、面白い。でもそれでいいのだろうか。
 こんな役を強烈に今の歳で演じてしまうと、大歌舞伎が「のらなく」なると思う。


尾上菊五郎



 「人間国宝」なんですよね、この方。まあ素晴らしいチャリの極み。私はずっと脳内加藤茶になって、「あんたも好きねェ……」と呟かずにはおれなかった。この人と中村翫雀がチャリ大賞。
 歌舞伎俳優としてのこの人は嫌いじゃないが……どんなに周囲がチャリをやろうとも、「菊五郎がシメるとこシメれば一座が締まるねえ、さすが人間国宝!」というぐらいになっていただきたい。そういう芸格であっていただきたい。



中村時蔵



 赤姫の衣装でマドンナ役。芝居に若さがない。大姫の貫禄、というより年増の余裕みたいなものが出て、違和感。初々しい菊之助に「わがつま……」と照れるところなど、姫の無邪気な「のぼせあがり」という感じがほしい。
 たまに褄を左で取った。そういうことをなさるべきではないと思う。
 この役、「中村芝のぶ」にやらせてみたかった。大抜擢は承知ですが、適役だと思う。全体のバランスもそのほうが良くなる。と、いうことから演出家に思いは及ぶ。


蜷川幸雄
 この人が歌舞伎のことをどれだけ知っているか全然知らないが……この人が演出家である必要、あったのだろうか。
 まず思うのは、演出を任せられたのであれば、歌舞伎界全体からオーディションなり、自分で「これは」と思う人をキャスティングするぐらいのことをしてほしい。菊之助以外は、「絶対この人でなくては!」という必然性が全然感じられない。
 これは想像ですが、演出上「ダメ」と思ったことの万分の一もキャストにぶつけられていないんじゃないだろうか。蜷川さん、あなたは菊之助以外の芝居、本当にいいと思ってるんですか? あんなぬるい、今まで何百回も歌舞伎座でやってるような芝居の焼き直しで、OKなんですか? 遠慮してませんか?
 自分がシゴける役者だけシゴくような人、演出家でもなんでもないと思う。


○付記



もう桔梗の花が咲いている。雨露をまとえばさぞかしいい風情だろう。代官山にて。



○ヤサブロー日記

(この日記の起こりは→こちらへ)


「夏の酒」
〜しょうちゅうは、俳句の方では夏の季語になっている。あのカッとするような、強烈なアルコールの強さが、暑気払いというわけで、夏の季語となっているのだろう。だから、その一種であるあわもりも、夏の季語だが、梅酒ほどには夏の季感が刺激されない。
(池田弥三郎 17日の記より)


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 今月中旬ぐらいまでが、梅の収穫のピークとなる。
 梅酒それ自体というよりも、青梅や梅酒づくりが、夏の季語なのだ。青梅は、果実の中でも最もかぐわしい部類の香りだと思う。
 そういえば先日、スーパーで赤紫蘇が売られていた。梅干を漬けこむ人もこの時期多い。そして今は梅雨。梅雨の語源ははっきりしないけれども、中国では古来、黴(かび)の生えやすい今頃を「黴雨(ばいう)」と呼んだが、あんまり汚らしいので梅を当てた、という説があるそうな。



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