七月大歌舞伎・昼の部その1

27日まで

 8日に昼の部を観てきました。
 いやー大入り。しかし歌舞伎座って本当に「アンチ・バリアフリー」な劇場ですね。ノー・エスカレーター、ノー・エレベーター。
 私は目が悪いんだけれど、階段を下りようとしたら、小さな2つの塊がうごめいていて驚く。なにかと目を細めれば、腰の曲がった2人のおばあちゃんが超低速で登ってらっしゃるところだった。手すりを命綱のようにかたく握りしめてらして……「決死の登山」のよう。そこまでして観たいのおばあちゃん……。
 私が急いでいて不注意でぶつかったりしたら……なんてことを考えると気が気じゃない。また歌舞伎座の階段って幅が小さくて急なんだこれが。
 あの景観がなくなるのは寂しいけれど、はやいとこ建て替えて、お年寄りにも楽な劇場になってほしい。


○『五重塔』(原作:幸田露伴 脚本:宇野信夫


 中村勘太郎のセリフがまぁ……お父さん、そっくり! 
 すごいことです。なんたって父親の中村勘三郎は、この役をやっていないのだ。五重塔建立をめぐる大工たちの物語、勘太郎は何が何でも塔を建てたい大工、主役を演じる。
 この狂言歌舞伎座にかかるのは26年ぶり。勘太郎の役は前回が今の吉右衛門、その前がなんと昭和28年、尾上九朗衛門が演じた役だってんだからなあ。
 近くに座っていた白髪の男性から「よっく似てる……」と微笑んだ声がもれる。そうだよねえ……目をつぶっていると、勘九郎時代のおとっつあんが喋っているかのよう。
 ここ最近父親が演じた役なら、テープなりビデオもあるだろう。繰り返し聞いて勉強した結果、似るのは分かるけどなあ。まさか、全部口移しで教わったわけでもないだろうし。
 もちろん、似てるからいいってもんじゃないけれど、「父ならどう演るか」という考えが常に基本にあるように思えて、清々しかったんですね。なんか微笑ましくて。
 しかし哀しいことに、それがこの芝居の見どころのすべてだった。


 うーーーん……なんかねえ、薄い。薄い芝居だった。
 幕開き、居並ぶ役者たちのたたずまい、所作、言葉遣い、すべてが板についてない。「江戸っ子コスプレ会場」に紛れ込んだかのよう。
 ここでさー、江戸の昔に観客を誘ってほしいじゃないの。板の上は時空を超えた魔法の場所と思わせてほしいじゃないの。「カ・ブ・キ」なんだもの、贅沢な望みじゃないだろう。
 和尚さまを演じる片岡市蔵……大工たちに説法をするんですね。これがまあ夏休み前の終業式の「校長先生からのおはなし」のようで。ちっとも内容が耳にはいってこない。
 市川春猿が長屋のおかみさん、勘太郎の女房役。あらまこんな役をやるのか、と驚いていたら結構いいんですよ。気のいい下町女の感じ、あるある! 出しゃばりでお喋りという役をたっぷりおかしく演じるが、あれでさらに「一歩引いた」感じが出せればあれば。前に出つつ、旦那役をいつでも意識している感じがほしい。さらには体の線のなまめかしさを演技で消せたら、尚いい。
 居並ぶ大工の中で、「おーっ、このひとスカッとしたいい芝居するなあ、誰だ!?」と思ったら、坂東三津之助だった。元・みの虫さん。とんぼの名人で勘のいい人。やっぱりうまい人は目立つんだよねえ。
 勘太郎のライバル大工の女房に上村吉弥。綺麗で所作もよくていい女。なんだけど……やっぱり「西の匂い」ってのは消せませんね。「いき」じゃなくて「すい」な女の風情。着物の着方かなあ……まろみが強すぎる。「きりりとしゃんと」した感じがほしい役だろう。


○付記


 許せない……。銀座にこんなものがダサいものがあるなんて! 北海道だけでは飽き足らず……くそー義剛ーっ! あろうことか和光の交差点からすぐ、竹葉亭のそば。なんという資金力であろう。第一キャラメルって脂の塊だぞ!? 普段ダイエットとかいってる女の子たちはなんで買うんだキャラメルをーっ!





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