七月大歌舞伎『天守物語』
「泉鏡花の作品はライフワーク、今後も上演を重ねていきたい」
プログラムに、坂東玉三郎はこんなコメントを寄せている。その泉鏡花の『天守物語』は、三島由紀夫が「鏡花の戯曲の最高傑作」と評した作品。
主人公・富姫を玉三郎が演じるのは、初演の昭和52年(日生劇場)から数えて11回目になる。
玉三郎が最初、舞台に現れる「出」が……素晴らしかった。見惚れてしまった。圧巻だった。
妖艶にして凄絶。立っているだけで、ドラマティック。
下げ髪の頭に肩まわりだけの蓑をまとったあの姿。
「出迎えかい、ご苦労だねえ……」
最初のセリフを聞いただけで、「ああ……来てよかった」そうシミジミ思わされた。もうこれだけで、元はとった。満足。私はいま舞台を観ている。舞台でしか在り得ないものを、観ている。
なので……もうコマゴマしたこと書く気がおきないんですよ、だからアップも遅れてしまったんだけれど。
昔、倍賞千恵子がインタビューで「もう指をパチンと鳴らした瞬間、スッとさくらさんになれる。さくらさんはそのぐらい、自分の中に出来上がっている人格」みたいな内容のことを話していた。いうまでもなく映画『男はつらいよ』の寅次郎妹役、さくらのことですが……玉三郎もすでに富姫に関して、そういうレベルにあるんじゃないだろうか。
泉鏡花らしい言葉の音楽を、夢想的な詩の連綿たる展開を、ひとり滔々と長台詞としてこなす玉三郎。その「いとたやすき」といった風情は、長年の芸の修練と蓄積というよりも、自然発生的に、今思いつきで喋っているような闊達さがある。雲の絶間や泉下からふと現世にやってきた異形のものが、玉三郎に宿っているかのよう。
ああ、もうそれでいいのだ。他のコマゴマはどうでもよくなっちゃう。ちょっと書き留めておきたいことだけ列記して終わりにしたい。
○亀姫(中村勘太郎・好演!)を乗せた輿をホリゾントに映す手法に疑問
空を飛ぶ幻想の輿、ってのを舞台奥に映写しちゃうんですね。安っぽい。一挙に醒める。
○朱の盤坊役の中村獅堂がニンにハマった、という感じで好演!
○幕開き、上村吉弥の奥女中から中村京蔵、京妙と続く渡りゼリフに、鏡花らしい幻想と怪奇が滲んで秀逸!
(10日)
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