アリシア・デ・ラローチャ、逝く

アリシア・デ・ラローチャ



 アリシア・デ・ラローチャが亡くなった。86歳。
 スペインが生んだ大ピアニスト。



 たまらなくなった。


 確かに、お年といえばお年だ。でも、不意だった。悲しくなった。


 訃報を聞いてから思わず、という感じで彼女の録音をCDケースから引っ張り出して聴いた。まだ彼女はCDの中でこんなにヴィヴィッドに息づいているというのに。そりゃもう86歳なのだ。引退の知らせも聞いていたけれど、なんとなくまた聴けると勝手に思い込んでいた。
 そんな思いのまま、彼女の故郷が生んだアルベニス、それからリストや、モーツァルト、そしていろいろ。それらが再生機から流れてくる。
 リストの『ラ・カンパネラ』を聴いていた。




 20世紀初頭の伝統を残すクリスタル・クリアな音質とヴィルトゥオーゾ。それらが実に流麗に、ペダリングのさばき方が巧みな現代的なロマンティシズム溢れる音楽に連結していく。音色がまったく濁らない理知的な打鍵と音楽構築。それでいて感情がストレートに伝わってくる情熱的な表現……磨きに磨かれ、洗練されたロマン派の完璧ともいえる音楽世界が、彼女の手から現れてくる。その「こころ」が、改めてしみいってきた。


 彼女の心に溢れた音楽の「イメージング」が、リストの音楽に憑依して、一音一音からほとばしってくる。豊かなテンペラメントが溢れていつつ、音楽技術的に干満たるところが一切ない演奏。インテリジェンスでありながら、実に「らしい」ロマンティシズムが漂う。
 すべてを満たすような演奏はえてして「つまらない」ものだが、この人の音楽は芳醇だった。泥臭く人を酔わせるような音楽とは(クラシック界にはそういう人が、「実は」実に多い。)まったく無縁だった。



 大好きでした、あなたのピアノが。


 さようなら、アリシア


 本当に、素敵な「音楽」を、ありがとうございました。






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