歌舞伎・口上の醍醐味

趣味はバイクでドライヴ

本当に遅ればせで「十八代目中村勘三郎襲名興行 口上」を見る。
友人に融通してもらったビデオがあったを
すっかり忘れていたのだ。

口上を見る醍醐味というのは、出演者の豪華さでも、
日ごろは見られない俳優の素顔でもなく、 その「口跡」を楽しむことだと思う。
口跡とは、役者達の言葉の述べ方、抑揚、 音量の上げ下げ、緩急のつけ方、
そういうったものをすべて含めたもののこと。
「あの役者の口跡はいいねえ」とか 「亡くなったおとっつあんに口跡がそっくりだ」
なんて使い方をする。口上はまさに、いろんな役者のテクニックや芸の大きさ、
愛嬌や持ち味、それに、二枚目役者、三枚目、大女形(おおおやま)から若女形
老け役(花車方という)といった殆どすべての歌舞伎の役回りのエッセンスを
一度に楽しめるの絶好の機会なのだ。 こんな贅沢なことってない。


 そんな中で一番唸らされたのは京屋。中村雀右衛門丈だ。
もう八十を過ぎた老齢ながら、漂う大女形としての色気、
大きさ、貫禄といったものがすべて「口跡」に溢れている。
口上で述べる内容というのは、セリフと違って「コメント」なので
話し方は普通の会話的な感じなんだけど、 聞かせどころはその「エンディング」だ。


勘九郎との思い出や先代との思い出を一通り語った後、
おもむろに時代がかったトーンになり、
「いつまでも変わらぬ新勘三郎さんへの御厚情、御贔屓を
すみからすみまでず、ず、ずいぃーっとおぅ、乞い願い、
(ここでちょっとタメがあり) あンげたぁてぇまぁつぅりますうるぅ〜」
と一気に聴き手を大歌舞伎の世界に引きずり込む。
その抑揚の不思議なトーンは、聞き覚えがないのに
どこか懐かしく、音楽的だ。
何代にも渡って歌舞伎が作り上げたオリジナルのリズム。
何代にも渡って日本人の体に染み込んで来た、独特のリズム。
歌舞伎の持つ魅力に体が不意に共鳴する――。
そんな感激がたまにあるから、歌舞伎は面白い。