シンドラーのリスト』の名演も記憶に新しい
リーアム・ニーソンが、実在した学者キンゼイ博士を演じる
ドキュメントタッチのドラマです。実に118分、まったく退屈しなかった!
監督・脚本は『ゴッド・アンド・モンスター』の ビル・コンドン
この監督はいつも「私はマイノリティなのだろうか?」という、
「根源的な悩み」を抱える人をドラマの核に据えてくる。
前作『ゴッド・アンド・モンスター』では「ゲイの老人の恋」を描き、
今回は1930年代の超封建的な性意識の中で、
自らの欲求に苦悩する人、それを研究する人を描いている。


「いかにして性衝動にとらわれることなく、真面目に大学生活をおくるか」
舞台は、こんな論議が大学授業で行われていた時代です。今から約70年前。すごいなあ。
叶恭子30人ぐらい送り込んでやりたくなりますが、
そんなご時世に 主役であるキンゼイ博士は、
「性の実態とその意識調査」を研究しようと思い立ちます。
キチガイよ」「なんてハレンチな!」と非難されたりからかわれたり。
でも彼は気にせず自分の研究を推し進めるのみ。
苦労の末まとめ上げた性のアンケート集大成「キンゼイ・レポート」は、
ふたを開けてみれば大ベストセラー。キンゼイ博士は名声を得る……というのが
クライマックスまでの乱暴なストーリー。長いですね、失礼。


本当にピュアで、笑っちゃうぐらい「学者肌」、真剣に「性」を研究してるという
役作りをしたリーアム・ニーソン、完璧!
何しろゲイバーいくわ男と寝てみるわスワッピングしてみるわ、
自分が可能な限りの性体験を「実験」としてやってみるんだもの。
一歩間違ったら「単なる色狂い」「キチガイ」「モラルの白痴的欠如」ってな
キャラになっちゃうところを、「ああ、本当に純粋に学者として研究してるんだねこの人」
という説得力を生み出してます。すっごい演技力だと思う。
「いろんな人がいるのだ。どれが『異常』なんてことはない」
キンゼイ博士がたどりつく結論ですが、こういうリベラルな考えを80年も前にしてた人が
いたことにまず感動。

「私は45歳になって自分がレズビアンであることを知った。
そんな変な人間は私だけだと思った。辛かった。 死のうと思った。
でもあなたの本を読んで、同性と性行為を行ったことがあると答えた人が
何パーセントもいる事を知った。 『私だけじゃ、ないんだ』
そう知ったときは本当に嬉しかった。あなたは、 私の命の恩人です。ありがとう」
ラストに近いシーンで、名女優リン・レッドグレーヴ演じる女性が
キンゼイ博士と話すシーンのセリフ。この映画の一つのクライマックスです。
アメリカって、ごく一部の大都市以外は、すっごく封建的な
性観念の国だと思うけど、彼がのこした影響ってかなり大きいのかもしれない。


まあ、もちろんショッキングなテーマ研究してたもんですから
けっこうな非難浴びるわけです。そこを奥さんと二人でいかにして乗り越え、
夫婦として成長していくかというのが、もうひとつの映画の軸。
奥さん役のローラ・リニーが本当に素晴らしい。 
なんと彼女撮影時41歳なのに、学生役がまったく不自然じゃないのは驚異的!! 
あ、つまらない「糟糠の妻」とかイメージしないでね。
なんてったって「スワッピング研究」に協力しちゃうような奥さんですから。
こちらもまた「淫乱」な感じがせず突き抜けた感じで表現してます。スゴイ。
特筆すべきはキンゼイの助手を 演じたピーター・サースガード(激しく野口五郎似)の
ゲイ演技。目つきや誘い方など本物と見まごうばかりに完璧で女郎系です。
クラシック、ジャズを使ったサントラもかなり趣味がよくとても満足。
演技者の心情と見事にクロスオーバーしてますよ。
サブ効果の趣味がいい映画にハズレなし。
公開は8月末、1800円の価値は確実にあると思います。
あ、ちなみに 『愛についてのキンゼイ・レポート』が
正式な邦題。だせえ。でも必見ですよ!


愛についてのキンゼイ・レポート [DVD]

愛についてのキンゼイ・レポート [DVD]