ヨーヨーと共に、タイムスリップ

犬の散歩とかいうワザがあった気が

フト戸棚や引き出しからこぼれ出てくる手紙や写真が、
いきなりウン十年もの昔の自分に引き戻す体験って
誰しもあるんじゃないだろうか。
楽しさや不安なんかがない交ぜになって
体全体が思い出す、リトル・タイムスリップ。
CMに映るこのヨーヨーが、そんな体験に僕を誘った。


ひさしが長く伸びたその店は、駄菓子屋だったかおもちゃ屋だったか。
プラスチックの玩具とたくさんのお菓子、けばけばしい色合いの怪獣やボールが
夏の影にキラキラと浮かんでいた。
その中に売っていたのか、オマケだったか。 赤・緑・紫の3つのヨーヨー。
一つ買ってやろうと言ったのは母だったか。
コーラは嫌だった。子供ながら王道過ぎる気がしたのだろう。
スプライトにしようかファンタにしようか。
今思えば随分時間も経ったのだろう。
優柔不断で決めあぐねる僕に、癇癪を起こした母は
「決められないなら買ってあげません!」と怒気を孕んだ声を上げた。
今あれだけ泣きわめければ さぞかしスッキリするだろうと思うぐらい、泣いた。


その後近くにあった広い池のある公園に行った。
池の周りには杭が狭い間隔で設置されてあったが、ちょっと母が目を放した隙に
小さい僕はなんとかすり抜けほとりへ行った。
買ってくれなかった母への当てつけもあったのかもしれない。
母が追いかけてこれないところに行きたい気持ちもあったのだろう。
池の浅いところには、オタマジャクシやアメンボ、ヤゴなんかがいたと思う。
見つめているだけで、さっき泣いたこともすぐに忘れ楽しく見入っていた。


どのくらいたったか、いきなり自分を呼ぶ大きな声がする。
振り向けば母が立っていた。
「戻ってらっしゃい、危ないわよ!」
その声には、さっきの怒気はなかった。母はそれ以上何も言わなかった。
なのに、僕はまた泣き出してしまった。急いで母の元に向かった。
さっきみたいに、上手くすり抜けられない。なぜか僕はごめんなさいと言っていた。
恥ずかしかった。


4歳だったか5歳だったか。
夕暮れの一瞬を思い出させた復刻ヨーヨー。
大人買いした復刻ヨーヨー。


今度も、コーラのは買わなかった。