マニッシュにして精悍・「西本智実」という指揮者

そのマオカラーは……

 肩の冷たさから軽い悪寒をおぼえて目覚める朝。冬が来たなあ…と実感した今年初めての日。
 いきなりスコーンと来ますねえ、挨拶ぐらいしたらどうか。予告してくれれば掛け布団でも出しておいたのに…と詮無いことを思う11月11日。
 毛布をかぶりなおして、テレビをつける。

「いろんな手の表情ってものがありますよね、それを伝えるんです」
 そんなフレーズがいきなり聞こえてきた。
 画面の中で何かを教えている女性の声はソフトに低く、スラリとした身長、
スッキリとしたプロポーションに長い手足。無造作にかき上げるブラウンヘアーに化粧ッ気のない顔。
「ああ、真琴つばさの『おしゃれ工房』か」
(元宝塚男役の真琴つばさが「素敵なものごし」「颯爽とした歩き方」だのを
レッスンする番組があったのだが、どう見ても「男役のものごし」「大股な歩き方」のレクチャーにしか見えないその番組が私は好きだった) 
 と思ったのだがどーも感じが違う。
 よく見れば何か手にもっている。指揮棒だ。なんとお話の内容は「指揮者による指揮法の簡単な解説」だった。番組はNHK「ホット・モーニング」。
 意表を突かれたこともあって聞き入ってしまったのだが、いやー…これが面白かった。興味深かった。
 わかるようなわからないようなオーケストラにおける「指揮」の意味を、実に的確に、クールに語っていたのだ。その人の名は、西本智実

 彼女の語る指揮の意味合いについてはそれだけで1エッセイできるぐらい面白いのだがそれはおいといて、注目すべきはそのキャラクターだ。
 すいませんが完全に宝塚の男役と思ってしまった。いや、褒めてるんです。よく素人が真似するようなレズやオナベの安っぽいそれとは一線を画している。
 それほどに素人離れしたものごしで実に颯爽としていた。バレエか何かやってらしたのではないだろうか。加えて明快で余計なところのない的確なトーク、押し出しのあるスター然とした貫禄……現在35歳、デビュー7年というのがにわかに信じがたい落ち着き。
 流されていた彼女の指揮風景を見ていて……なんちゅうか
「リストみたい」と思ってしまいましたね。いや勿論リスト会ったことないけどさあ。19世紀クラシック界最大の指導者にしてカリスマ作家・演奏者・指揮者だった彼のカリスマぶり、そして聴衆たちの熱狂は今も伝説として文に絵に残っているけど、なんかそんな感じが漂ってたんだよね、西本さんの映像には。
 哲学的にして静謐なそのスタイル、そして何かマニッシュな雰囲気、一見の、いや失礼、一聴の価値ありですよ。


西本智美

1994年大阪音楽大学作曲科卒業。
在学中からザ・カレッジ・オペラハウス、
関西歌劇団の副指揮者を務め、
1996年ロシア国立サンクトペテルブルク音楽院へ留学。
フェドートフ、ムーシンに学ぶ。
1998年 文化庁芸術インターンシップ奨学金研修生に選ばれる。
1998年京都市交響楽団を指揮し日本デビュー。

現在、チャイコフスキー財団・ロシア交響楽団 
芸術監督・首席指揮者に就任(2004年 5月)
ムソルグスキー記念 サンクトペテルブルク
国立アカデミックオペラ・バレエ劇場
首席客演指揮者( 2004年 9月〜) 現在に至る。