氷解する喜び−名映画評論家・ポーリーン・ケイル−

明かりが消えて映画がはじまる -ポーリン・ケイル映画評論集

明かりが消えて映画がはじまる -ポーリン・ケイル映画評論集

氷解する喜び。
ポーリーン・ケイルの評論集はこの喜びと快感に溢れている。


「名作って皆いうけど、たいして面白いと思えない!」」
「みんな酷評だけど、俺には最高なんだけどなー」
というモヤモヤした気持ち、経験したことないですか?
この本は、そんな気持ちを吹っ飛ばしてくれる快著です。
例えば私の場合『タクシー・ドライバー』という映画がそう。
私は全く乗れず、この映画がなぜみんなが「名画」と言うのか
まーったくわからなかった。(まあ時代感とかいろいろあるんだろうけど)
いろんな人に聞いたけど、さして納得できる答えは返ってこなかった。しかし。
彼女の論説はいとも簡単にこの映画を読み解いていく。
なるほどそうだったのかコンチクショー! 嬉しいなあ!!
このスッキリ感は読んでてやめられませんよ。


ベルイマンにも名作との誉れ高い『カッコーの巣の上で』にも
容赦なく自分の意見を述べ、斬りまくっていく文体は痛快そのもの! 
といってもネット評論家にありがちな
「芸のない博識」「インパクトだけの毒舌」「読み物になってない嫌悪」ではなく、
「私は映画が大好きでしょうがない。だからつまらない映画を見せられると、
こんなに腹の立つことはない」のだ、という姿勢がまったくもって美しい。
食通が一食ハズすと大層落ち込むのと似て、典雅な稚気すら感じられる。
そう、上質の「毒」は「愛」なくては成り立たないのだ!


※ポーリーン・ケイル
23年間も『ニューヨーカー』誌の映画時評を担当した
評論家。反骨精神溢れる率直な批評は
圧倒的人気を博していた。2001年死去。