フランソワ・オゾン監督最新作「僕を葬る」

原題「Le temps qui  reste」

「ぼくを葬(おく)る」http://www.bokuoku.jp/

原題:Le temps qui reste(英題:TIME TO LEAVE)
監督・脚本:フランソワ・オゾン(『まぼろし』『8人の女たち』)
出演:メルヴィル・プポージャンヌ・モロー
ヴァレリア・ブルーニ=テデスキほか
4月下旬公開予定!


<簡単なあらすじ>
 主人公のロマンは今日、余命3ヶ月の宣告を受けた。全身をガンが覆っている。
ファッション・フォトグラファーとして名声もあがり、
すべてが順調だった彼に去来する様々な思い。
父、母、姉、恋人、祖母……周囲の人間を通じて最期に彼がたどりつくのは――。


 フランソワ・オゾンの作品には、
いつも「何かをひきちぎられた人々」が現われる。
子供を産めない女、犯された女、心に埋められぬ穴が開いたかのように、
飽くことなく愛を求める人々など。
彼の映画の中にいつも充満するのは、「喪失感」と「諦観」。
今回の主人公は、ガンで「死」を目前にした男だ。


「生命」を突然ひきちぎられた男――愛や子供はまた得ることも可能だが、
どうしても、どうやっても手に入らないものを奪われた男はどうするのか。
オゾンはそこに、逆説的なようだが「答え」を見つけたようだ。
一度どん底まで叩き落された主人公が、たった81分の間で
失ったもの、そして手に入れていたけど、気づかなかったものまでを、獲得していく。
独特のユーモアとセンスで、「喪失感」や「諦観」を作品に仕立て上げていた彼が、
この作品ではひとつの「救い」まで描ききった。
私はそのことにまず、驚いた。


 告知受けた主人公はその後、公園にたたずむ他人、
日向ぼっこする人、散歩する子供、恋人たちを見て顔を覆い、嗚咽する。
それは、「生」のまぶしさに彼が直面する第1歩だ。
 誰のセリフか忘れたけれど、私の好きなセリフに
「世界をいつも、今日生まれてきた人のように見つめられ、
明日死ぬ人のように見られたら!」というものがある。
この映画の主人公は、次第にそんな気持ちになっていったに違いない。
「死ぬこと」と「生きること」は、どちらが先でどちらが後でもない、
輪のようなものなんだと、この映画は気づかせてくれる。
「生まれ、死ねてよかった」と思えることは、自分の人生を肯定することにほかならない。
たった3ヶ月の間に、主人公はそんな境地に向かって疾走していく。
小さなエピソードの数々と、ひとつの映画的幸運によって、生きるように死んでいく彼。
静かだけど、波のようにいつまでも引き返す感動が、
見終わったとき私に打ち寄せた。


 なーんて似合いもせずキレイぶって書いてますが
オゾン作品の中でも出色の出来だと私は思います。っていうかこんなに早く老成して
いいもんでしょうか。死ぬまで退廃やアンニュイ(死語)だった
パゾリーニやアントニオーニとはエライ違い。
(あ、まだアントニオーニ先生はお元気でした。失礼)
「死の受容」というテーマなのに、今回もオゾンらしく官能的な香りが
立ち込めているのもさらに凄い。 主人公を演じた
メルヴィル・プポー」、いやー最近私は観てなかったですが
こんないい俳優になってたんですね! あの『夏物語』(E・ロメール)のダメ色男が。
ガンが進行して、次第に顔は生気が無くなってきつつも、
心の平静は満たされていく――という非常に難しい演技を見事やってのけました。



 それとプポーの祖母を演じた「ジャンヌ・モロー」がすっばらしいですね、
おんとし79歳。主人公が唯一自分の弱さをさらけ出させる存在を演じますが、
母性を感じさせつつ、女としての色香をも役柄に漂わせる。
寝付けない孫のプポーが「一緒に寝ようよ」というと
「私、寝るときは裸なのよ?」(しっかり真珠にゴールドのアクセサリーなどつけられて)
なんてセリフ、「サマ」になるだけ奇跡的だ。
孫との別れのシーンは映画の中の白眉。

最初からオイオイ泣くようなブザマなマネはしない。
あくまで祖母としていたわる言葉をかけて、
「また電話するのよ」「花をあげるからね」と気遣って、
最後の最後にこらえられなくなってしまう。
「これが最後かもしれない」「彼の元気な姿は、もう見られないのだ」
という感情が、孫の乗る車が出発する瞬間に爆発してしまう。
でも、スクリーンにその姿は見せない。きびすを返し、顔を背け家に入っていく。
歌舞伎の引っ込みのように見事な、美しい引き際だった。
ここまで「ハードボイルド」な女優も、あと100年出てこないだろう。



などと書いてるとキリがありません。たまに激しく「ダイアナ妃」に見える
ヴァレリア・ブルーニ=テデスキロメール映画の常連・マリー・リヴィエールなど
いずれも好演。このテーマで81分におさえ、
なおかつボリュームと厚みを感じさせる映画など超レア! 
4月中旬〜GWにかけてシネスイッチなどで公開予定です。


●お知らせ
ブログランキングに登録。
1日1クリック↓プリーズ!
http://blog.with2.net/link.php?198815


●今日の一食
四谷「タナロット」のランチ(インドネシア料理)
http://www.bento.com/revj/2371.html



この日のオススメということで
いろんなおかず盛り合わせをオーダー。きっちり1,000円。
ターメリックライスもこうばしく、
オムレツ、スパイシー・チキンと竹の子と牛肉の炒め物がのってます。
インドネシア独特の甘さと辛さ、そしてタイでも中華でもない
香辛料の匂いを堪能できましたが、ちょっとプライスバリュー的には
完全満足、という具合にはいきませんでした。
夜のメニューもバラエティ豊富、という感じではなく
「ワクワクする何か」に欠ける印象。
渋谷の「アユンテラス」に遠く及ばないな、と思ってしまいました。