冷やし麺連想

ズズッとね

 冷やし麺、なる言葉が最近流行している。
お蕎麦、うどんは言うに及ばず、韓国の冷麺、冷製パスタなど
あらゆる麺類の冷たいものの総称のようだ。雑誌の特集などでも
大きな見出しがついて書店で目立っている。
熱夏、なんて言葉はないけれど、猛暑という響きにふさわしい今夏は
特に冷たいものがおいしいもの、売れているのだろう。
 しかしこれほど難しいジャンルの食べものも中々ない。
みなさんも冷麺や冷やし中華を汗だくのさなかに頼んで、いざ口にしたとき
「ぬるい……」と思われた経験、一度はあるのではないだろうか。
 あれほど落胆する経験もそうそうない。
むしょうに悲しくなって、早くこのむなしさを消してしまおうと急いで食べたことが何回あったことか。


 冷やし中華で思い出したけれど、これもラーメンと同様、本場中国ではないものらしい。
私が育った仙台では「冷やし中華発祥の店」なるものがあった。
これが本当なら現実に日本オリジナルの食べものということになるが、実際はどうなのだろう。
だいたいネーミングからして「クール・チャイニーズ」というのも謎だ。
中華という食のジャンル全体を冷やしてしまうという名前からして壮大な食べ物。
今度帰郷したらなんでこういう名前にしたのか聞いてみよう。報告をお楽しみに。


 小さい頃、私はざるそばが大好きだった。
外食するといつも「ざるそばが食べたい」とねだっていた時期があって、
「またなの、たまには違うものにしたら」と母があきれて言ったことを覚えている。
子供心に「海苔がつくだけで随分値段が変わるんだな」と不思議に思った食べものだったが、それでも好きだった。
その差額分、私はなんだか親に悪いように思えて気が引けたのだが、それでも「もり」では嫌だった。
わがままとは思いつつ「ざる」じゃなきゃ嫌だった。
変なことを気にして、そのくせ我はしっかりと強い我ながら嫌なガキであった。
 先日、久しぶりに母と蕎麦屋に入る機会があった。
よく僕は小さい頃ざるを食べていたね、随分ねだったね、と懐かしく思い
母に問えば、ひとこと「そうだったかしらねえ」と、素っ気なく答えたのみであった。
本当にまったく覚えていない様子で、ただ目の前の冷かけを食べることだけに専念している。おかしいな……。
その頃やたらざる蕎麦に執心する僕に母はあきれていたはずなのに、なんで覚えていないのだろう。
まさかアルツでは……と、しばし心配してしまったほどだ。
 しかしまあ、あの頃の母はとかく忙しそうだったことを思い出した。
父は仕事ばかりで、家や子供のことなどすべて母に任せっきりな家だったし、度重なる転勤で
心休まる暇もなかった母は、そんな些細なことなど気に留める暇もなかったのだろう、
母さんくだらないことをごめんよと、大変だったろうね、10秒ぐらいでもボケ老人扱いして
ゴメンねと思ったそのとき、
「あなたはねぇ……好きな食べ物多すぎてよくわがままばっかり言ってたもの、いちいち覚えちゃいないわよ」
とひことこ彼女は吐き出したのだった。
 私の記憶は相当自分にいいよう修正されているようである。


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