女の【対決!】映画・第8回 『吉原炎上』(1987 東映)

女優のお仕事は髪を傷めます

 私は強い女が好きだ。妄執の女、自我の強い女、

いがみ合う女、闘う女……こういった女たちが

実際に自分の身の回りにいたらたまったもんじゃないが、

強い女たちが活躍する映画を見るのは、私にとって最高の悦びのひとつである。

たまにブログでも、そんな女たちがはっちゃけまくる映画を紹介していきたい。

いったいなんのために。今日はその第8回!



※また、「ミクシィ」というツールでも同様のコミュニティを開いています。

そちらはもっと様々にブランチがあって楽しめるかと思います。

もしやってる方がいたら見てみてください。

「女の【対決!】映画」http://mixi.jp/view_community.pl?id=278039


■■『吉原炎上


かつて日本映画界には、五社英雄という大監督がおわしました。
文芸大作を次々と映画化し、大女優達がこぞって彼の作品に出演したがった超大物です。
その彼の監督人生における集大成とも言えるべき作品が、この「吉原炎上」。
この作品はとかく「女の情念」だの
「花魁のエロティシズム」だのといった「VIVA ウタマロ!」な
イメージを持たれがちな作品ですが、それはまったくの間違い。断言しますが、
この作品の本質は「学園もの」なのです。そう、「都立水商!」を20年も前に先取りしていた作品だといっても
あながち過言ではありません。性のフィニッシング・スクール「吉原学園」にて、
五社理事長に主演女優・名取裕子が教育され、五社好みに仕込まれてい姿こそが見もの。
まずは冒頭、名取が吉原の里に入学するシーンからお話は始まります。


●「大マラ、小マラ、冷やかしマラの来ませぬように」
 早くも皆さんがドン引きしてるのが目に浮かぶようですが、これは名取が売られた店の「商訓」です。小学校の頃
「よく遊びよく学べ」なんて文句が掲げられてましたね、あれみたいなモノです。迷惑な客が来ないようにと、
一心に女郎達はこの言葉を連呼して祈ります。うら若き女優さんたちがズラッと並んで、
こんなセリフをのっけから大声で叫ぶ映画……五社理事長のほくそ笑む顔が目に浮かぶようです。
さて、右も左もわからぬ名取を仕込むべく、三人の先生が登場します。


●一人目の先生・「保険体育の女 〜体で教える〜」
 まずは最初の先生、トップ花魁の「二宮さよ子」から。
いよいよ初夜、本格女郎デビューという段階で、「やっぱこわいわ嫌あぁぁぁぁぁッ!」と走って逃げた名取。
最初の教育実習からこのザマです。切れるさよ子。「女郎の手管(てくだ)を全部体に教えてやるよッ!」と
ノリは完全に女をシャブ漬けにして商品にするヤクザと一緒。おぼこの名取にあの手この手を教えこみます。
どんな手かはここでは省略しますが、「四十八手」とだけ書くにとどめましょう。
まあ多分このシーン、五社理事長が二人のカラミを見たかっただけなんじゃないかと思うんですけどね。
こうして名取は、叶恭子著「3P」に書かれてあるような花魁としてのテクニックを一夜にして体得しちゃいます。
ファンタスティック!


●二人目の先生・「反面教師の女 〜死ぬよ〜」
 さてお次は「藤真利子」、この店の№2が先生です。この女の存在意義は「こうなっちゃおしまいね」という
吉原のダークサイドを名取に叩き込むことでした。何しろ彼女、だめんずに惚れて尽くしに尽くしぬくのに
ゴミみたいに捨てられます。ここまではよくある話。しかしその後堕胎やらでヤケになって暴れまくり、
公衆の面前で自殺。それも「引っ込みがつかなくなって自分で喉かっさばく」
という壮絶な幕引きです。道連れは金魚。ピチピチ。
しかもご丁寧に最後は「無縁仏」になるというエグい生き様をこれでもかと名取に見せつけます。
「あんな死に方だけは絶対するまい」……固く名取は誓うのでした。


●三人目の先生・「創作ダンスの女 〜Bite me!〜」
 最後の先生「西川峰子」は花魁の位にこだわるあまり、発狂する女です。
おりしも外は秋祭り、にぎやかなお囃子(はやし)が吉原のそこかしこで鳴り響いていました。
病気だから休んでろっつーのに、「あたしは花魁なんだよッ」と言って店に乗り込みます。
当然迷惑、やめて峰子。ピーヒャラピーヒャラ。その拍子に合わせるかのようにテンション逆上。
「あたしは花魁なんだよ、なんだい名取なんてッ!!」店のみんがが「やめろ」と止めるごとにヒートアップ、
後輩の名取が花魁になって悔しくて仕方ない峰子。ピーヒャラリー。
次第に嫉妬の余り狂いだし、男を欲します。乳房もあらわに絶叫するセリフは「ここ噛んで、ココッ!」
大声でエンドレスにシャウトするこのシーンのインパクトは、もうすでに語り尽くされたといっていいでしょう。
多くの男をインポにし、多くのゲイを開花させた伝説的シーンです。
私は「悶絶」という言葉の意味がこのシーンで初めて分かりました。
そう、彼女は「吉原」という「魔物」に踊らされ、止まれなくなってしまった哀れな女郎なのです。
「赤い靴」ならぬ「赤い襦袢(じゅばん)」を身にまとい死ぬまで踊り続けます。ピーヒョロロー。
そんな彼女の姿を見て名取は、「やっぱこんな商売ロクなもんじゃねえ」と長渕チックに思うのでした。
そして最後に一発、派手な「女の花道」を飾るのです――。


●今はもう取れない「夢の映画」
 登場する女達は、すべて五社英雄の「女ってこうあってほしいな」という願望の表れにほかなりません。一途で、
思いっきりがよくて、優しくて、おろかで、セクシュアルで……リアリティは
まったく皆無ですが、これは「大監督のワガママ」というものが
そのまま通った時代の美しい産物です。愚直なまでに分かりやすい男のロマン、そこを存分に楽しんで頂きたい。
最後のデザートはかたせ梨乃さんが女優生命をかけてのぞんだ理科実験、
「いったい人間はどこまで爆風の至近距離に行けるのか」という
素晴らしいオマケつきです。しっとりとした文芸の香りを感じさせ終わるかと思いきや、
最後の最後で大ドンデン返し。ご堪能ください。


●この原稿は「CDジャーナル2006年7月号」(音楽出版社)の
ヒロポン映画劇場」に掲載されたものを
大幅に加筆訂正したものです。


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