映画『リトル・ミス・サンシャイン』

hakuouatsushi2006-12-11

第19回東京国際映画祭 最優秀監督賞・最優秀主演女優賞・観客賞を受賞
監督:ジョナサン・デイトンヴァレリー・ファリス
出演:アビゲイル・プレストン、グレッグ・キニアポール・ダノトニ・コレットほか


リトル・ミス・サンシャイン
 至極真っ当でシンプルな「普通のホームドラマ」である。
ただ、あらすじだけを読んだ人はそう思わないかもしれない。一家を構成するのは6人。簡単に列記してみよう。


 父:売れない自己啓発セミナーをやってて、その論理をいつでも振りかざしては家族をウンザリさせるテンション高めの男。
 母:そんな稼がないダンナのため家事にパートに追われる日々。毎日チキンバーレルのような食卓だが愛情がないわけではない。
 息子:ニーチェにはまってる半引きこもりみたいな男。パイロットになる夢が叶うまでは口をきかないという誓いを立てている。
 娘:6歳ぐらいの子。ジュニア・ミスコンテストで優勝するという夢にとりつかれている。ダンスの練習に余念がないが悲しいかな幼児体型は隠せず。
 祖父:セックス狂いで老人ホームを追い出され挙句にドラック中毒。超元気。
 伯父:母の兄。ゲイで失恋して自殺未遂したナイーヴな売れない学者。


 うーん……やっぱり普通じゃないかも(笑)。いやいや冗談、本作はこういうパッと見エキセントリックな人たちを思いっきりコメディタッチで描いているが、決してバカにはしていない作品だ。変な、非現実的な人間としてではなく、誰しもが抱えるウィークポイントを、素直にさらけ出しているキャラクターとして描いているだけ。世の中で生きていると自然に甘受しなきゃいけないような「嘘」「欺瞞」、正直に「ふざけんな!」って言えないあれこれ……それらを我慢しなかったり必要以上に我慢しちゃってる人たちを、ファミリーというスタイルの中で描いた、そんなお話。
 ある日突然、娘のオリーブがジュニア・ミスコンテスト本選に受かったことから家族全員が「非日常」の時間を共有せざるを得なくなる。本選会場まで移動するための2日間、今までロクスッポ顔を合わさなかった人々がずーっと一緒に、せまいところに居っぱなし……。
 話のそこかしこにアラはあったり強引で類型的なシーンがなきにしもあらずだけど、「落としてきてしまった『何か』を再発見しあう」そして「家族がメンタルに再集結する」という話を(いい意味での)「映画の嘘」を用いながらうまく料理して魅せてくれる。そう……「家族の絆が深まる」なんてリバロ並みにくっさいテーマを作品として成功させるには、監督と役者の「芸」がなければできたもんじゃないですからね。この映画には素敵なシェフがそろっていたと思う。
 監督のシニカルな目線と笑いのセンス(ミスコンやそれに熱中する人々への知的な嘲笑とか、家族同士が愛情を露骨に表すことへのテレ具合とか。なんでも私は露骨にやる人が嫌いだ。ヤボだと思う。その点でこの監督はすべてにおいて「ひとひねり」ある表現をとるところが好ましかった)、そしてキャストの良さが光っていた。(特にお気に入りは『ミュリエルの結婚』以来ごひいきのトニ・コレット、そして『キング 罪の王』でも独得の存在感を光らせたポール・ダノですね、この男の子どうしようもなくヘンなのに、ちゃんと若さがあるのが偉い!)
 なんだかいつも以上に「」と()多用した嫌な文ですね、失礼しました。素直に「面白かった」という言葉がこぼれて試写室を後にしましたよ。ファミリー・ロード・ムービー、結構好きなジャンルなんだなあ。公開は12月23日、シネクイントほかだそうです。


 何かが欠けてしまったファミリーが、何かが欠けているアイテムによってその和を取戻していく……こんなポンコツ車や、どっかイっちゃってるミス・コンとかによって。そんな対称の比も面白い作品でした。

■映画公式ホームページ http://movies.foxjapan.com/lms/
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