昭和系のことばたち

辛酸なめ子さんじゃありません

気がつけば3日もブログをサボってしまった……「死んでるんじゃないか」「生きてんの?」「忙しいフリしちゃってえ」そんな素敵なメールをくれた友人達よ、ありがとう。フツーに元気に暮らしてますからどうぞご心配なく。あ、元気といえば最近こんなことが。こないだ「元気ですか、調子はどうですか」と知人に訊かれたおり自然にツルッと口から「息災にやっております」というフレーズが出てきて自分でも驚いてしまった。いったいいくつなんだ俺は。うーん……でもこういう息も絶え絶えな日本語表現、好きなんだよなあ。
 私にとって古い日本映画を観る楽しみの一つは、まったく様変わりしちゃってる日本語を聴くことにもある。有名なところでは原節子に代表される「〜ですわ」「〜ですの」「あたくし」という令嬢言葉(今の汚れきった「お嬢さま」なんて言葉では表現できない世界だ)がありますね、中野翠さんは「高峰三枝子の上品な言葉遣いは最高」と書いてらしたが、私は司葉子発するはにかんだような、いかにも「深窓の令嬢」っぽい言葉遣いが好きだ。椎名誠の「白い手」に出てくる病弱な令嬢は、若い頃のこの人のイメージなんだよなあ。話が逸れすぎだ。令嬢言葉……ちょっとニュアンスは違うけど今じゃもう黒田清子さんしか遣っておかしくない方はいないだろう。まさに滅びきった文化だと思う。うーんまさにお言葉界の「ニッポニア・ニッポン」。原節子の人気が不滅なのはこういった言葉遣いを駆使できるところにもあると思う。この方は造形的な部分よりも、そのメンタリティにおいて男性の心を打ってやまないのじゃないだろうか。
 あとはそうだなあ……小津安二郎の映画で多用される「ちょいと」という言葉も素敵。私のささやかな夢のひとつに、ジイサンになったときに馴染みの料理屋かなんかを訪れた折「随分ご隠居、久しぶりですね」なーんて言われたいなあというのがある。さらにはその返答として「ちょいとそこまで来たもんだからね」とかなんとか言いたいのだ。もちろん着物姿で懐手ね。ちょっとくど過ぎるからベレーにループタイ、といういでたちでも可。本当にくっだらないと思うが絶対にやりたい。そのために長生きしたいと思うほどに。正真正銘の馬鹿だな俺。
 そう……他にはなんだろうな。杉村春子が何かの映画で早口に言ってた「もうお味噌なんかちょっとっきゃないのよ」というフレーズもたまりません、素晴らしい。「きゃ」という言葉、とってもフェミニンでスイートだと思うんだけどなあ、今じゃ滅多に聞きません。映画のタイトルが思い出せなくて悔しいけど、銭湯に行くことを「お湯もらってらっしゃいよ」っていったり、お願い事するときに「後生よぉ」ってせがんだりする女性達も魅力的に思える。成瀬巳喜男の『流れる』だったろうか。なんとも艶があって、色っぽい言葉じゃないか。あ、あと「いい塩梅」というのも好き。のどかで暖かいニュアンスがパーッと心に広がります。そうそう、こないだ見た映画で石鹸のことを「シャボン」といってたのも新鮮だった。言いえて妙だなというか、「ソープ」なんて名前よりずっとキュートだと思う。
 まあ確かに時代の流れと共に消えていく流行の言い回し、定番フレーズというのもあるけれどね。この手の表現で私が好きなのは「蛍光灯」というヤツだ。昔蛍光灯ってスイッチをつけてから完全につくまでにチョットした間が昔はあったのだ。タメというか助走というか……なんとも微妙な間で、そのことから物事の理解が遅い、ちょっとタイミングがズレる人のことを指していたのだとか。「あいつ、人はいいけど蛍光灯なんだよなあ」みたいに使ったよう。すぐにパッとつく蛍光灯が出回ってから消えた言葉だけど、なんともノスタルジー漂う表現で、可愛らしく思えてしまうのだ。
などと他愛もない雑記ですが、これ今度きちんと特集してみたい。はい、なんのために。

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 傑作です。原作も日本語の豊かさを濃密に感じられる名著。


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