ティアラ展 〜華麗なるジュエリーの世界〜

自然主義時代の人気、星のモチーフ

 宝石が好きだ。と、いうと語弊があるな。宝石ならなんだっていいわけじゃあない。誤解を怖れずいうが、私は一部の宝石が持つ「まがまがしさ」のようなものが好きなのだ。
 王冠の中央にはめ込まれた嘘のような大きさの宝石、持ち主が次々と失墜していったという呪いのダイヤ、何千万分の一の確立でしか生まれないというカラー・ダイヤモンド……まるで一篇の小説、映画のような「ヒストリー」のある宝石、というのが稀にある。

 私は、そんな栄光と無常、とてつもない偶然を感じさせる「いし」というものに惹かれてしまう。そう、冗談じゃなく、超一流の宝石には観ているだけで他を圧するような迫力、さらに踏み込めば、「呪力」のようなものが厳然として、あるんだ。一時代を築いたような歴史上の人物、そんな偉人超人たちの肌、アトモスフィアを吸い込んできた石に、何かが宿らないほうがおかしい。というのは余りに夢見がちな考えだろうか。しかしそんなドラマ、ファンタジーを私はこの展覧会で堪能した。


 ティアラ、というものは当然「権力者の妻」の象徴であり、この展覧会はすなわちヨーロッパから現在に至るまでの「世界最高クラスの富を手に入れた女たちの変遷」的側面を持つ。彼女達が愛したモード、属した世界がかい間見え、そして隣にいたであろう男たちの歴史を思うと不思議な感慨におそわれた。展覧会を歩くごとに、昔おぼろげに聞いた世界史の授業が聞こえてくるような気になった。
宮廷の女たちに「国家行事ではティアラ着用」と命じたナポレオン一世、それはやがてティアラを「君主制のシンボル」にまで結びつける。そしてやがて迎える王政廃止、そのとき富める女たちは前時代的なティアラを嫌い、エイグレットという羽根をあしらった新しいカジュアル・ティアラを身につけだし、それはやがて共和制のシンボルになっていく……。教科書で習う歴史の裏に、こんなささやかなエピソードもあったのだ。個人的にはグレース・ケリーが娘の結婚式に着用したというティアラが忘れがたい(調製はヴァン・クリフ&アーペル)。『裏窓』のあの人が頭につけたものが目の前にあるんだなあ……しばし陶然としてしまった。とにもかくにも、間違いなく現世を一瞬忘れ別世界にいける展覧会、眼福でした。
<参考資料>
 エイグレット


あと一週間もありませんが、お好きな方は是非
公式HP:http://www.ntv.co.jp/tiara/


〇付記
この展覧会で嬉しかったのはカルティエ、ショーメ、ブシュロンといったヨーロッパの最高級老舗宝石メゾンの作品をいろいろ観れたことだ。そして何よりも伝説のメレリオ・ディ・メレーの作品をたーっぷり観られてこれまた重畳。400年ぐらいの歴史を誇り、マリー・アントワネットのブレスレットなんかも調整した宝石商、その作風は繊細で巧緻の極み。現在のクラスはどうなのかちょっと分からないのだけれど、日本版のHPもあるよう。
公式HP:http://www.mellerio.jp/accueil/menuJP.html


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