ある俳優の死 −船越英二さん−

安らかに

 船越英二さんが亡くなられた、享年84歳。映画での船越さんを私なんかが知る由もないが、昔テレビの名画劇場で見た『夜の蝶』での彼が、すごく印象に残っている。京マチ子が銀座のママ、山本富士子が京都のママで火花を散らす、そんな映画だった。

 船越さんはその間を行き来する、ホステスの周旋屋を演じていた。元々は音大生で作曲家を目指していたインテリなのだが、挫折の果てに裏街道を歩いている……というような人物設定だった。人生を斜に構えノンシャランに生きているが、どこかノーブルな匂いは消せない……そんな複雑な人間をうまく演じられていた。そう、嫌味のないインテリ、しかもどこか陰がある、という男がピッタリだった。しかしながらそんな「陰」の面だけでなく、マイホーム・パパのような、アメリカのホームコメディに出てくるような「陽」の男も、うそ臭くなく演じられる人だった。名匠・市川崑監督作『私は二歳』での演技はいい例じゃないだろうか。
  とかく訃報では『野火』『時間ですよ』ばかりが取り上げられているようだが、先の2作品が私には忘れ難い。「バタくさい二枚目」といえばこの人と根上淳だった。蛇足だが、「船越栄一郎さんの父」というニュースでの紹介が許し難い。父である前に俳優だった人だ。過去を遡行し尊重する心のない人たちが私は嫌いだ。
 合掌。お疲れ様でした。素敵な演技をありがとうございました。


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