足流るる川に思う

こんな事件が増えませんように

 なんだか頭の中に大きな「一時停止」標識がドーンと浮かんでいるようだ。思考停止、なんていうと大げさだけど、今までの培ってきた自分の物差し(価値観・判断力と言い換えてもいい)が、いきなりグニューンとひん曲がっちゃったかのような気持ち。ああボンヤリ。
 多分ブログ上ではここ数日、「思わずニュースを聞いていてギョッとした」だの「猟奇的な事件には大分耳慣れたつもりだったけど……」みたいな表現が溢れているだろうなあ。というのも、日本橋の川に人の足が浮いていた、という事件のことに関して。

 私はこのニュースを聞いた瞬間、いきなり自分ごと違う世界に連れて行かれたような気持ちになってしまった。例えていうなら……澁澤龍彦の幻想奇譚とか、「遠野物語」的な説話の世界に来てしまったかのよう。
 パラレル・ワールドっていうのだろうか、大体昨日までと同じ世界なのだけれど、どこかちょっとズレている、どこかが根本的に変質している世界に紛れ込んでしまったかのような不思議な気持ち。それは、異世界に遊ぶというような愉しい気持ちではない。
 デヴィッド・リンチ監督の傑作『ブルー・ベルベット』の印象的なプロローグを思い出す。主演のカイル・マクラクランが久しぶりに里帰りをする。見慣れた野原を歩いていると、そこに切り取られた人間の耳が落ちている……そこから彼は昨日まで住んでいた世界から隔絶され、悪夢が襲う……。と、いきなりオーバーな例えですが、リンチ世界で耳をみつけたカイルのような気持ちに私はなってしまったんだなあ。「裏社会の制裁?」とかそういう考えは全く浮かばず、考えることもできなかった。それは陰惨な現実からの逃避ゆえかもしれない。
しかし私には、日本全体がパラレル・ワールドに移行しているように思えてしまう。どんどん常識とか道徳とか、「通念」がすごい勢いで変わっていく。自分勝手な「ファンタジー」をどんどん(全体が共有する日常という意味での)リアルにしちゃってる人が多すぎるんじゃなかろうか。それは道徳観の欠如うんぬんという問題で起こるんじゃなく、各人の「美意識」の欠如が問題なのだと思う。


○追記1
と、書いていれば福島・会津若松で「母を殺した」と自首、切断した母の頭部を持ってきたという高校3年生のニュースが。母の生首を差し出す……彼なりの「ファンタジー」の世界には、この行為を実行に移すだけの(彼だけなりの)「正当性」はあったのだろうか。


○追記2
例の「日本橋川の足」事件ですが、ご丁寧に「爪が全部剥がれ」ているというのも恐ろしい。今日のニュースで「東京湾に浮かんでいた別の水死体と足が一致するのでは」という見解からDNA鑑定が行われるらしいが……やっぱり裏社会の制裁的な事件なのでしょうか。と、ここで神戸沖大阪湾・妊娠5ヶ月の女性水死体遺棄事件の犯人が逮捕。夫が犯人というが……重石をつけて袋に入れて沖に沈めるという行為、この人がどういう経歴の人か知らないが、「素人は素人らしく、玄人は玄人らしく」という美意識の崩壊に他ならない。どうして皆簡単にそこの垣根を越えてしまうのだろう。


○追記3
「足事件」ではいろんな幻想世界を思い出したが、なぜか横溝正史的世界は不思議に思い出さなかった。ひとつだけ付け加えておきたいのが、奇才漫画家・魔夜峰央描く妖怪の世界。川に流れる切れた足……和でも洋でも今でも昔でもない、時空の越えた絵世界を描ける彼のスタイルにピッタリではなかろうか。と、ものすごく不謹慎ですね、失礼致しました。

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