辻井伸行さんをめぐる報道に思う

辻井伸行

 「彼は、指先に目が付いている」


 辻井伸行さんの指導者・横山幸雄(ピアニスト・上野学園大学教授)氏の発言が印象的だった。
 ニュースで短く演奏を聴いただけですが、確かにタッチに迷いがない。直感的ではない、確信的な演奏。高音部から低音部への手の移動、その思い切りのよさと正確さ。
「他にも盲目のピアニストはいます。けれど、弾き始めるときは(指で鍵盤を)さぐってから引き出すんですね。でも、彼はいきなり弾き始める」
 それが、まるで指に目がついているようだ……と、横山さんは見る。


 1音も弾かずに、鍵盤の位置が把握できるのだとしたら、凄い。それが馴染みのピアノで馴染みの椅子というのならまだ分かる。どんなピアノと椅子であろうとも「いきなり弾きだせる」としたら、一種の超感覚じゃないだろうか。


ヴァン・クライバーン国際コンクールで日本人が優勝!」
 日本時間8日朝、速報で伝えられたこのニュース。各メディア、トップ扱いで報じ続けたのに驚いた。チャイコフスキー・コンクールで邦人1位のときだって、ここまで盛大に取り上げられはしなかった。


○盲目であることに対するマスコミの「期待」

 
 失礼を承知で書くが、盲目であるということが、マスコミの「食指」を動かしたことは事実だと思う。
 私はこのニュースを聞くのが少し、嫌だったんですね。
「その身でよくぞここまで」という目線が、テレビニュースの語り口に生まれている(それは、無意識のもあれば、作為的なものと混在だったけれど)。
 さらにいえば、「どれだけ大変だったか語ってちょうだい」さらにはそれによって「泣いてちょうだい」「泣かせてちょうだい」という、辻井さんに対する言外の要求、そういったものを感じてしまったから。
「苦節ウン十年、ようやくヒットを出した演歌歌手ならしてくれそうなリアクション」ってありますよね。我ながら長い例えだと思いますが。
 そーいったものを「してくんないかなあ」的期待を、マスコミに感じてしまうのだ。


 しかし!
 ご本人、あっけらかんとして、明るくて。自身のハンディにまるで無頓着な感じが……痛快でしたねー、いいですね! ストレートにこの結果を興奮して喜んでいるさまが、いかにもハタチの青年らしく、爽やかだった。


○今日! 横山さんと辻井さんのデュオライブがラジオで


 調べてみたら今日の14時から、こんなイベントが。


 〜米国テキサス州フォートワースで開かれた「第13回バン・クライバーン国際ピアノコンクール」において日本人で初優勝した全盲のピアニスト、辻井伸行さん(20)が11日、「TOKYO FMホール」(東京都千代田区)で、恩師のピアニスト、横山幸雄上野学園大教授(38)と凱旋(がいせん)ミニライブを開く。
 辻井さんと横山さんはコンクール決勝で披露したラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を共演。演奏前には2人の対談も行われる。ライブの模様は、FMラジオ局「TOKYO FM」の音楽番組「DIARY」(午後2〜4時)で生中継されるほか、13日の「MUSIC APARTMENT」(午後3時25〜55分)と15日の「クロノス」(午前5時〜8時半)でも放送される〜


 名前同様、彼の音楽も伸びやかで真っすぐのようにニュースからは聞こえた。ちょっとラジオをじっくり聴いてみよう。



○追記
このヴァン・クライバーン国際コンクール、優勝者はこれから3年にわたってリサイタルが契約されるようなんですね。すべてクライバーン財団のコーディネートで、世界中で計百回以上ものコンサート活動に辻井さんは入るわけです。これはチャンスでもあるけれど、諸刃の剣でもある。このハードスケジュールが、琢磨の場ではなく、磨耗という結果になってしまうピアニストも歴史の中ではたくさんいるのだ。



○もうすっかり梅雨空



東京って紫陽花がいっぱいなんですね。



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