今回の事件を勝手にキャスティング

裁判員制度のPR映画



 目まぐるしい! 
 展開も早いが、「ネタ」が多すぎますね。オーバードーズ
 酒井法子、一連の逮捕劇は「ドラマティック」の一語に尽きる。出来のいい「昼ドラ・1クール分」を一挙に1週間で見てしまったような気分だ。
 酒井法子が今まで築いてきた「パブリック・イメージ」とは、すべてこれ今回のスキャンダルを盛り上げるために積み重ねられてきたんじゃないだろうか。いや、皮肉ではない。
 正統派アイドルとしてデビューし(80年代も終盤にアイドルとしてデビューし、90年代に人気を保持したこと自体すごいことだと思う)、大ヒットドラマ『星の金貨』など女優としてもいい作品に恵まれ、そしてママドルへ。自身のブランドも好調な売れ行き。ああ順風満帆。
 しかしそれらはまるで今回の転落劇のために、悪戯好きな芸能の神様が彼女を高みへと押し上げ、一挙に積木崩しをして楽しんでいるかのような、そら恐ろしいものまで私は感じてしまう。
 それほどに、芸能ニュースとして「一流」の事件だ。なんたって「章立て」が、凄い。



■平成グランドロマン「酒井法子 わが逃走」目次

【序章〜夫の逮捕 サブタイトル『パンツの裏側』】

○舞台は深夜の渋谷、道玄坂は百軒店


 現場の東海林です。こういう誰でも思いつく昭和ネタはいけませんね。さてストリップ小屋やラブホテルが立ち並ぶエリアからお届けしていますが……おや、なにやら警官3人と男がひと悶着を起こしています。
 挙動不審の夫が職務質問される最初のくだりですが……こっからまず、濃い。
 9日の『情報7daysニュースキャスター』(TBS系)で詳細に再現していましたが、腕のある脚本家ならここだけでゆうに1時間のドラマを仕立てることでしょう。

○夫の発言:1
ポケットの中は絶対に見せられない


 この押し問答は1時間に及んだという。「そのうち路上に人が集まっちゃってね、ポトカーや応援の警官も一杯来たよ」という目撃証言も。


○夫の発言:2
俺の妻は女優なんだ!


 こういったそうなんですね、高相ダンナ。
 うーん……いきなり難癖ですが、このスキャンダルの一番の弱さは、ダンナの言動にさほど魅力が感じられないところですね。役不足。いきなり「有名人」の身内ということを官憲に告げたり、のちに妻を売るような証言をしたり。ダメ男ならダメ男で「まあこの雰囲気なら女も惚れちゃうかもなあ」という愛嬌と色気がほしいじゃないですか。若い頃の「火野正平」みたいな感じというか。実際の高相容疑者の写真や数少ない動画からは、そういう部分は全然伺えず。
 彼のキャラクターの部分がまったく報道されないのがこの「グランドロマン」のささやかな不満だ。


 閑話休題
 満を持して主役の登場、酒井法子が現場に! ここは津島利章さん(『仁義なき戦い』のテーマを作った方)あたりに悲壮感漂う音楽をつけてほしいところです。


○妻の発言:1
任意なのか? 強制なのか?


 TBSによると酒井法子はまずこう詰め寄ったそうなんですね。警官、完全に「クロだな」と思ったに違いありません。ポケットの開示を求め続けられます。下川辰平さんがお元気ならば、粘りのきいた感じで演じて頂きたいシーン。後ろに控える若者警官には21世紀の裕次郎こと「徳重聡」あたりでどうだろう。
 そしていよいよ断りきれなくなった法子ダンナの断末魔。


○夫の発言:3
精力剤なんです。恥ずかしくて出せなかった


「このダイコーン!」下手な言い訳にもほどがあります。蜷川幸雄センセイなら間違いなく灰皿100枚ぐらいは投げつけたことでしょう。しかしのりピー、「この人はデリケートなもので」と援護射撃したそうなんですね。このやり取りで「デリケート」という言葉を妻が遣うのも「えっ、それは心が? 体が?」ってな感じで微妙なのですが、結局覚醒剤反応、陽性にて夫・逮捕。


○妻の発言:2
 いきなりのりピー新橋演舞場チックに叫びます。
この辱めをどうしてくれるの!
 そういってのりピーは泣き崩れたんだとか。それは警察に言ってるのか、ダンナにぶつけているのか、はたまた自分に投げかけているのか。
 自ら「辱め」という言葉を選んだとおり、アイドル人生のキャリアが、この日以降、まさに陵辱されていきます。
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 なーんてこの調子で書いていったら終わりません。以降の展開をドラマや映画の「章立て」的に、ザッと列記してみたい。このグランドロマンを映画化するとしたら、こんな感じ。


【第1章 妻の失踪】 
〜夫の裏切りに気が動転した悲劇のアイドルが消えた!

 前半はあくまで大メロドラマチックに。「哀しい運命に翻弄された人気ママドルの蒸発」というドラマ仕立て。彼女を探す刑事たちのドラマみたいにしてもいい。そう、少年時代にのりピーファンだった若い刑事が主軸になったりしてね。


第1話『プロサーファーは“自称”だった

 導入部として、外苑前の有名スキーショップのボンボンとして育った夫の人生にクローズアップ。虚構の人生を検証する松本清張的なイントロではじまる法子・愛の劇場。


第2話『山梨で消えた微弱電波
第3話『山梨で命を落とした父の面影

 
 都会から一転して舞台は山梨へ。TBSの取材班の「法子さんを見かけませんでしたか?」という問いかけに対し、農婦の「こんな山の中誰もくるわけない」という至極真っ当な答えが非常に印象的でした。
 なんでものりピーのお父さんが亡くなられた場所でもあるんだそうですね。交通事故だったとか。映画『愛は霧のかなたに』のように、父親のカーステレオからのりピーの歌が流れ続けているようなカットで第2話の終わり。町中に「酒井さん目撃情報求む」というビラが配られた山梨編は『砂の器』のような哀切に満ちた推理ロマンに仕上げたいもの。


第4話『届いてくださいこの声――悲痛なる事務所社長の叫び
(特別主題歌:『帰ってこいよ』by 松村和子


 そして再び東京は四谷、サンミュージックに舞台は戻る。いろんな人が書いてますが、かつてのアイドル自殺、そして松田聖子をはじめ稼ぎ頭達の退社続きなど、女難続きの事務所ですねえ。ここが舞台になる第4話。先代社長が空を見つめつつ「やはり……うちは呪われているんじゃあ……!」などと禍々しく狂乱するシーンを見どころに。加藤嘉さんあたりに演じさせたい役どころですが、現在なら大滝秀治さんが適役か。


第5話『失踪四日目―発見された子供
第6話『子供の声を聞かせて――
(特別主題歌:『お別れ公衆電話』by 松山恵子


 日本の伝統芸能、「母もの」的な見せ場。このあたりから主人公が実は道ならぬクスリに手を染めて、ということを匂わしたい。のりピーファンだった若手刑事が「嘘だ!」と連呼しつつ涙し、ベテラン刑事が「最初から尿検逃れの失踪だったって分かるだろ、素人じゃねえんだし」と冷たく言い放つシーンが第一部ヤマ場。キャスティングは……30年前なら森田健作露口茂にお願いしたいが、今なら……碧き、じゃない青木崇高と宇崎竜童なんてどうでしょう。


【第2章 アイドルから、容疑者へ】


第1話『家宅捜索

 
 しかしまあ……「自宅から押収された吸引器の付着物が酒井容疑者のDNAと一致」この知らせには驚きました。DNA検査ってそんなに簡単というか、すぐ出来るものなんですね。逃れようのない証拠がありますよ、という強烈な知らせ。これと逮捕状で逃げるのを断念したんでしょうが……逃走中の「ひとり芝居」がこの映画のキモといっていいでしょう。ここをどう描くか。私はなぜそんなこをと考えているのか。


第2話『家のクスリは俺のじゃない――自称プロサーファーの調書より

 
 夫のダメぶりを存分に発揮してほしいシーン。ここは色気と愛嬌のある俳優……誰でしょうねえ……デビュー当時の「村上弘明」みたいな色男に演じてほしいと思いましたが、サーファーだしねえ……。あ、藤木直人でどうでしょう。松本清張ドラマ『夜光の階段』での色悪ぶりが素晴らしかったし。



藤木直人さん。このリンゴ食べたら大変なことになりそうな気がしてきました。



第3話『失踪劇から、逃走劇へ
第4話『逮捕状請求
第5話『出頭
(特別主題歌『聖母たちのララバイ』by 岩崎宏美


 加熱するマスコミを描く部分もたっぷりと。渋谷警察に車で入署するさいのフラッシュの嵐がクライマックス。TBS『情報7daysニュースキャスター』(8日)の視聴率はなんと30.4%。これ、2006年の紅白よりもいい数字ですからね(関東第一部平均比)。


【第3章 余波】


 まさに急転直下、クラブでノリノリのDJ模様が動画サイトにアップされたり、テレビやブログでの非難忠言が相次いだり。以下のような続報が次々と。

第1話『裁判員制度のPR映画、配信停止へ
裁判員って人間性というか、生き方まで問われている気がして」(実際に酒井法子が劇中言うセリフ)
第2話『プロデュースブランド、すべて回収へ
第3話『弟も逮捕されていた!
第4話『今度は相沢社長が消えた!〜怒号の飛ぶ記者会見
 製作部長だかの右後ろでやたら居丈高に質問していた小太りな方が印象的。あーいうとき、社名と名前をいってから質問するのが筋だと思うんですけれどね。

 今回の事件で、酒井法子という人の「ポテンシャルの高さ」に驚かされた。
 こんな平成芸能史に残るような大事件に発展してしまった、というのは、事件内容もさることながら、本人の芸能人としてのバリューの大きさ、強さ、高さがなければできないことだ。

 さて、【第4章】のサブタイトルはどうなるのだろう。
『更生』? はたまた、それとも。



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