最近読んだ本から

　先日も書いたが、米原万里さんのエッセイが面白くて、面白くて。
　銀座の教文館の2階を上がると、すぐ目の前に食に関する文庫本のコーナーがある。ここのセレクトがまさに秀逸。昔から名著と評判の高いものから最近のヒットまで、それこそ素敵な食の本のビュッフェのようになっている。
　今、教文館のHPを見たら、「食文庫フェア」なのだそうだ。お好きな方はぜひ。と、その下を見たら「ビジネス書フェア」も開催中、とのこと。

　おや……？　こんなキャプションが。

「今話題の中谷彰宏や勝間和代の本のほか、ビジネス人必読の本がもりだくさん！」

　直球で書きますが、「中谷彰宏」さんって今「話題」なんですか。あの人のことだから『拒否する力』『断るパワー』ぐらいのタイトル本は作ってらっしゃいそうですが……。本気か教文館。
　いろんなHPってのぞいてみるもんですね。そっとのぞいてみてごらん。昔の人はいいこといいます。今日は最近読んだ本・買った本のこころのメモ。なんだそりゃ。

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■『美智子さまのお着物』

写真集 美智子さまのお着物

　まず表紙に目を奪われた。この頃、つまり美智子皇后の昭和40年代は、凄い。
　この時期の美智子妃は、「俗」と「滅私」の境目にある。そこが、圧倒的に美しい。今のように完全に「天上人」になりきっていない。天与の美貌が次第に仏性を宿していくかのような、悟りに近づきつつある修験者のような、不思議な美をたたえている。
　その時代の写真が多く観られるだけで、価値のある一冊だと思う。

　ご婚約から現在に至るまでの着物姿がおさめられているが、ああ……もっと写真だけにして頂きたかった！　大層ご丁寧なんだけれど何がいいたいのかよく分からない、渡辺みどりさんの「ご解説」（結構なページ数なんだこれが）は涙を飲んでカットして頂いて、写真をもっと載せてほしかったなあ。
　自然、着物の流行というものも分かるのが面白い。柄はもちろん、着付や帯の結び方、袖丈の感じなども時代によって随分と変わるものだ。
　皇族の方々が公務で着られる着物というのは、他国に日本の染色や刺繍などの伝統技術を知らしめる、という意味合いものあるんだとか。なるほどごもっとも。しかしそうすると、紬などの「どんなにお高くてもあくまで普段着」系のものはどうなるんだろう。そのあたりも、世界のVIPマダムたちにぜひ知らしめて頂きたいと思うのだけれど、なあ。

■『思い出を、あげて、もらって』

風見章子の思い出を、あげて、もらって

　この女優さん、ご覧になればお分かりになる方は多いだろう。
　都会的な奥さん、おばあちゃん役が持ち味の女優さんだ。冷たい姑役もこなされるが、基本的に暖かみを感じさせる役が多いと思う。当たり前なのだけれど、私が小さい頃からズーッとテレビに出ておられる。失礼な話だが……小さい頃から「おばあちゃん役」だった方が、今でも元気で、変わらず「おばあちゃん役」をされているのを観るのは、なんだか嬉しいものだ。私は早くに祖母をなくしているから、余計なのかもしれない。
　これは彼女の自伝。巻末のプロフィールに明記されているから書いていいと思うが、なんと大正10年生まれ。ひとつ上に森光子がいる。舞台を2000回主役で張る女優も凄いが、脇役でずっと続けてこられた女優も、凄い。こういう人にも、もっとスポットを当ててほしいと思う。

　文章も若いんだこれが。
　私は勝手に、風見さんは東京・山の手育ちと思い込んでいた。そういう言葉遣いがいかにも「のる」方だから。しかしさにあらず、ご自身でも書かれているが、群馬は富岡の育ち。
「実際の私は。やんちゃで活発」で、「空っ風の上州女気質」。なんと「芦屋夫人のようだといってくださる方が少なくないが、生まれも育ちも、もちろん性格も、そのようなセレブとはとんと無関係」と笑っておられる。「セレブ」なんて最近の言葉もサラッと折込み、「ジャリトラの運転手と大ゲンカした」勝気なエピソードなども披露する。
　そんな「お転婆な私」だけれど、「（上品でおとなしそうと）言われたら、肯定も否定もせずに、ニッコリと微笑むことにしています」と結んでいる。上品なイメージの風見さんが、ペロッと舌を出したような気がした。
　木下順二の『夕鶴』で知られる女優・山本安英に師事していたこと、共演してきた三國連太郎、緒形拳、芦田伸介といった名男優の心づかい、あの名優・浪花千栄子が映像演技で苦労した話、そして最晩年の田中絹代とのエピソードなど、興味深い話は尽きない一冊。

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