『預言者』

 先週末から公開されているこの映画、ちょっと応援したいのです。


 昨年のフランス映画祭で上映されたので観た方もいると思う。
 『リード・マイ・リップス』ジャック・オディアール監督の最新作にして、カンヌ・グランプリ受賞作。

 去年の試写で拝見したんだけれど…うーん、シビレたんだだよなあ。

 これ、フランスの刑務所を舞台にした作品です。

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 通常。

 日本ならば。

 小・中・高と学校を卒業して、どこかに就職して、そこではじめて「社会」というものと出会う。
 先輩や上司から色々なことを教わって、「社会とはこういうものか」「社会での人間づきあいとはこういうものか」と感じて、成長していく。

 この映画の主人公の青年は、19歳。


 そういう「社会との折り合い」「世の中で生きる」ということを、彼は刑務所という場所で知っていくんですね。
 自堕落で我がままに生きた結果の入所、というのでもなく、
 それは彼が「フランスの中のアラブ系」ということも関係してきます。

 そういうもろもろを、説明くさくも、同情的に描くでもなく、淡々としたタッチで簡潔にまずイントロで描かれます。


 この19歳の青年が、実に不思議なキャラクター。

 周囲のムショの大人たちに否応なしに巻き込まれ、仲間というか、どうにも戻れないところにどんどん引き込まれてゆくのですが、その渦中にあって、なんというか…ずーーっと天衣無縫なんですね。悲壮感がない。イノセント。
 ヒヤシンスの球根が水を吸って茎をぐんぐん伸ばすかのように自然に、しなやかに刑務所社会のルール、つきあい、「仕事」というものを覚えていく。

 そこには、「ちょっと要領のいい新入社員」などがあらわしがちな嫌味、小狡さ、「うさぎと亀」の「うさぎ感」といった卑小さなどは微塵もなく。実にのびやか。
 それは「悪を悪とも判断できない」といった悲劇感をともなうものでもなく。うん、イノセント。

 私には彼が、「裏社会の島耕作」のように思えてなりませんでした。黙っていても才能のある人に目をつけられ、仕事を教えられ、チャンスをものにしてしまう。
 生きる上での飛躍の機会が飛び石のように設けられていく。

 それが、彼はたまたま「刑務所」という世界だった!



 このままダラダラ全ストーリー感想記しても仕方ないので、このへんで。後半の展開が実にいいんです。ラストシーン、忘れがたい。


 150分という長尺ですが、私は1分ぐらいしか退屈しなかった。
 カンヌのグランプリとはいえ宣伝もされてないし、人気のないと言われるフランス映画だし、ちょっと応援したいのですよ。

 こういう作品、公開しようと思って頑張ってくれてる人がいるってことがどんなに素晴らしいことか。


 渋谷ヒューマントラストシネマほかで公開中。もう一度観よう。