七月大歌舞伎『天守物語』
「泉鏡花の作品はライフワーク、今後も上演を重ねていきたい」
プログラムに、坂東玉三郎はこんなコメントを寄せている。その泉鏡花の『天守物語』は、三島由紀夫が「鏡花の戯曲の最高傑作」と評した作品。
主人公・富姫を玉三郎が演じるのは、初演の昭和52年(日生劇場)から数えて11回目になる。
玉三郎が最初、舞台に現れる「出」が……素晴らしかった。見惚れてしまった。圧巻だった。
妖艶にして凄絶。立っているだけで、ドラマティック。
下げ髪の頭に肩まわりだけの蓑をまとったあの姿。
「出迎えかい、ご苦労だねえ……」
最初のセリフを聞いただけで、「ああ……来てよかった」そうシミジミ思わされた。もうこれだけで、元はとった。満足。私はいま舞台を観ている。舞台でしか在り得ないものを、観ている。