水菓子の悦び

種のまわりもこそげ取る。

大石プラムが大好きだ。
梅雨の頃ぐらいから八百屋の店頭に
あの赤いきれいな実が並ぶとむしょうに嬉しい。
どんな果物もハウス栽培で年中見られるこの頃だけど、
大石プラムは今の時期しか食べられない。
そろそろ盛りも終わり、探して2軒目で見つけて慌てて2パック購入。しめて760円。
人気がないのか栽培が難しいのかは知らないが、
一年に一度っきりしか食べられないのがまた嬉しいんだ。


寿司屋なら新子、天ぷら屋ならギンポ
楽しみに待つような気持ちにも似ている。
「また一年経ったのだな」となんとか永らえていることへの感謝や 、
光陰に対しての感慨にふけるような気持ちも
プラムのおいしさに厚みを加えているのかもしれない。
まあそんなコムズカシイことは食べるときに考えるわけもなく、
子供のようにむしゃぶりつく。
前の晩から冷蔵庫に入れてキンキンに冷やしたプラムを さっと洗う。
茎に連なっていた所だけ微妙に山吹色が残っている。
そのほかはまったくの紅色に染まったプラムが
パツンパツンと水を弾く。可哀相だが一口でがぶりと噛めば…


「うンまーい!」


酸味と甘みが口の中にどっと押し寄せる。
溢れる果汁の多さにポーッとしながら
もう左手は次のプラムをつかんでる。


こぼれる汁よけに
バスタオルを首からかけて
小学生に戻る夏の昼。
変わらぬ味に舌つづみ。


どこの家からか
聞こえるのは
夏の名残や風鈴の音。