仙台のソウルフード、「HOYA」

酢の物が最高

 面白い記事があった。
北海道行きの機内で読んだ
東京新聞に載っていたのだが、その記事は同時に、
私をちょっとしたノスタルジーな感覚に陥れた。
見出しは「韓国でブーム、ホヤが消える!」というもの。


ちょっと遠回りな話になるが
私は3歳から12歳までを宮城県仙台市で暮らした。
今でも私の故郷は仙台だと思っている。


父が勤めていた会社は、
一番丁という仙台の目抜き通りの裏、三越の隣にあった。
仙台が政令指定都市になる何年も前、まだ大通りとはいえ
のどかなものだった。
会社の近くに小さな魚屋さんがあって、
小銭の入ったザルが上から吊るされているような
懐かしい造り。奥には腰の曲がったおばあさんが
いつも手ぬぐいを三角巾にして魚を下ろしていた。


店先には生きたアサリやら沢山の魚が陳列されていて、
よく「魚屋さんにいるね!」と言っては見に行ったものだ。
さぞかし魚屋さんも迷惑だったと思うが
触覚のような長い器官を「ニョロッ」っと出し
呼吸をするアサリを飽きるでもなくずっと見つめていた。
まだ小学校一年ぐらいだったと思う。


その中でも一際奇異な見かけをしていたのが、ホヤだった。
赤茶色でイボイボのあるボディ、変な毛がところどころに生えて
確かにおおよそ美しいものではない。
それに時折「ピュッ」と水を吐く。
その行為はアサリが息をするのと同じことなのだろうが、
セミのおしっこにも似て、「かかったら大変!」と
キャアキャアいってその様を楽しんでいた。


そんなホヤを、不思議と子供心に「気持ち悪い」とは思わなかった。
魚屋のおばあちゃんがとっても大事そうに扱う仕草や、
買っていく人々の眼差しに、なにか特別なものを感じていた。
ホヤは、大げさに言えば
仙台人の「ソウル・フード」のひとつだったように思う。
離れてみて分かったが、ほとんど他の県では食べないのですね。
仙台ではどこの魚屋さんでも見られる一般的な食べ物なのだけれど。


で。ここまでが前置き。長いなあ(笑)。
今韓国では空前の「ホヤブーム」なんだそうだ。
最初はキムチにあえるのがはやったそうだが、しだいに生の味わいが広まり
今では来年分まで仙台に注文がくる始末。しかも仙台の取引額の2倍以上で
仕入れていくんだとか。ホヤ特需。
よってシンプルに仙台市内では供給不足となり
店先からホヤが消えているんだとか。なんともはや。


これによってとっても利益をこうむっている人もいっぱいいるのだろうし、
2〜3年先にはホヤ漁業も両国ともに出荷できる体制が
できるだろうから、深く心配しているわけでもないけど、
この「ホヤミッシング時代」に思春期を迎えた子供たちが、
他県の人のように、いつしかホヤを見て
「気持ち悪い!」と叫ぶ仙台っ子なってしまったら、
うーん…それは無性にさびしいことのような気がするなあ。


なんてことを考えた、昨日の機上。
北海道の居酒屋には、ホヤはなかった。