美しき運命の傷痕 
(フランス・イタリア・ベルギー・日本合作・2005)
監督・脚色:ダニス・タノヴィッチ 出演:エマニュアル・べアール、
カリン・ヴィアールマリー・ジランキャロル・ブーケ、ジャック・ペラン、
ギョーム・カネジャン・ロシュフォール


と、書いてるだけで楽しくなってしまう豪華フランス俳優総出演。
ふたりのベロニカ』『トリコロール』三部作を撮った、
クシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺稿となった原案を映画化したもの。
ベースはダンテの「神曲」。 などと書くと「ザッツ・おフランス」「難しそう」
「観念的」とか思われるでしょうが、
さにあらず。はっきり言いますが、この作品をは
「レディース・コミック」ですよ。ちょっと検証してみましょう。

 物語の主人公は三人姉妹。
過去に父親がある事件を起こして母親と決別、
それがトラウマとなって3人は現在も人間関係に悩む……というのが乱暴な筋。
 まあこの愛における悩みやら悶えが「ベタ」なんですよ。
ちっとも観念的じゃないんだこれが。「愛の懊悩(おうのう)」
「運命の不条理」とかいうテーマを期待して行っちゃいけません。
フランス映画界を結集して作った贅沢な「メロドラマ満漢全席」と思ってご覧下さい。
ネタバレですが、それぞれの場合。


長女のモナムールな悶え】(エマニュエル・べアールさん・主婦)
ファッション・フォトグラファーの旦那が浮気。
(もうこの設定から「トレンディドラマ」っぽい)
タバコをくゆらせ、いつもしどけない格好でべアールは髪をかき上げ悩み悶えるばかり。
浮気相手の写真を、さりげなく旦那の目につくところに
置いて嫌がらせしても一向に効き目なし。 当然ストーカー行為決行。当然修羅場。
なんとベアールいきなりテーブルひっくり返します。
アニメ大国・フランスのことですから「星一徹」でも見たんでしょうか。
出て行く旦那を 死んだ魚のような目で睨みつけながら、
以前旦那が持ってきた観葉植物の葉っぱを1枚1枚むしり取る……。


次女のセラヴィーな疼き
カリン・ヴィアールさん・独身・プー?)
強度の臆病者で、そこそこキレイなのに自信がもてないカリンさん。
ある日ふってわいた様にいい男にナンパされます。
なんとそのナンパ方法が いきなり「詩の朗読」(@こじゃれたカフェ)……アムール。
もちろん「およしになってッ!」とばかりに逃避。
でも毎日その男がいたカフェを眺めてしまいます。
頭ではいけないと思っても体が反応してしまうの…… とばかりに
うちに招き入れちゃいます。 勿論うまく話せません。カリンさんいきなり奥の部屋へ。
「? 放置プレイ?」といぶかしむ男、しばらくして奥の部屋へ行くと、
一糸まとわぬ姿でベッドにたたずむカリンさん、「来て……」



三女のトレビアンな情熱
マリー・ジランさん・学生)
何度電話しても出ない彼……どうして? 
「もうかけて来ないでくれ」大学の教授と絶賛不倫中のマリーちゃん、
いきなりの別離に茫然自失、もちろんなりふり構わず家に押しかけます。
即効逃げる彼。「なんで話すらしてくれないのッ!?」泣く泣く。
当然のように妊娠。猫より早いペースです。
なんと「体温計」をはさんだメッセージを彼に送りつけるマリーちゃん。
往年の村田兆治を思い起こさせるような豪腕直球ぶりです。
されどアムールは戻らない……。あまりにつらくて
コイバナ相談しに友人宅へ行くと奥から出てきたのは……。




 いまどき昼メロだってやらないような直球ストーリーが
フランスの超一流スタッフによって演じられていきます。なんという贅沢! 
私は断言しますが、今後世界がリメイクするのは、ジャパンホラーや
アニメだけではありません。これからは「真珠夫人」や「牡丹と薔薇」のような
名作昼ドラを海外が着目することうけあい。日本の「これでもか」と
ひんねり曲がった愛憎ドロドロ劇をフランス人に見せ付けてやりたいものです。
なんのために。


 ラストだけがちょっぴりおフランスですが、堅苦しくなく楽しめます。
マリー・ジランの溢れるような情感、エゴイスティックなまでに
自分の気持ちをぶつけゆく若い愛の表現が、並みいる名優の中で一番見事でした。
今春、Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマにてロードショー。