『ナイル殺人事件』(1978)

三浦和義がトリックを参考にしたという



■■ナイル殺人事件 ---DEATH ON THE NILE---■■
(ネタバレ・ミステリーなので知りたくないかたはご注意!!)


 ファンのいっぱいついてる作家の映画化ほど、監督にとってやりにくいものもないでしょうね。
 ファンはどうしても自分の作品に対するイメージと比べてしまい「あそこが違う!」「ここをタップリやらないでどーする!」と喧々諤々、愛が深ければ深いほど「あら捜し」も横行します。
 この作品はの原作はアガサ・クリスティ。はそれこそオタク級のファンが山ほどいます。公開当時は相当叩かれたんだとか。「原作の面白さが活きてない」「盛り上げに欠ける」「ミスキャスト」「ポアロはあんなんじゃない」いろんな批判も多かったようです。
 しかし! この映画を改めて見直してみて驚きました。この映画は推理映画でもなんでもないのですね。気の強そうな女が怒り、キチガイじみたストーカー女が復讐の炎を燃やし、妖怪めいたばあさん二人の貫禄を楽しむ。そういう映画だったのです。ここが見どころと思って下さい。
 まず、大まかにあらすじを説明。



●プロローグ


 女優・ロイス・チャイルズさんが颯爽と登場します。
 かつて「007」ではボンドガールも勤めた美女、今回は「莫大な財産を相続した女」という役どころ。つまり彼女の金を狙って、「お命ちょうだい!」とばかりに有象無象が忍び寄ってくるのです。迷惑この上ありません。



ミア・ファロー登場


 世界三大整形女優のひとり、ミア・ファローさんが続いてけたたましく登場。ロイス演じる金持ち女の友人役です。
「私のフィアンセに仕事を紹介して、あなた金持ちなんだから!」
 そんな図々しいお願いを「いけしゃあしゃあ」とロイスさんにのたまいます。どうでもいいですがこの「いけしゃあしゃあ」って素晴らしい語感ですね、大好き。話を戻します。ミアちゃん、イケメン彼氏をロイスに紹介するやいなや、いきなり鳴り響くミュージックが「ウェディング・ベル」! 今「シュガー」と反射的に思った人、もう若くありませんよ
 そう、彼氏をまんまとロイスにさらわれちゃうのです。



●地獄のハネムー


 ロイスも馬鹿なことをしたものです。
 ミア・ファローの男を取ったらどうなるかぐらい分かるものでしょう。もちろんミア、お得意のサイコ演技で二人の跡を地獄の果てまで憑いていきます。
そのストーキングたるや、「FBI」だってこうはうまく尾行できないんじゃないかというレベル。多分ミア(尾行)と家政婦・市原悦子(盗聴)が組んだら完璧この上ない諜報活動が出来るでしょう。


●ピラミッドでこんにちは


 幸せイッパイお金もイッパイの新婚夫婦、遠くイギリスからエジプトまでハネムーンでやって来ました。
「よいしょ、よいしょ」
 二人の結婚後、初の共同作業は「ピラミッドのぼり」。なんてロマンティック!! 「ようやく頂上よ!」登りつめた二人を包む達成感と満足感……「愛してるわ」人生のこれがまさに絶頂。と、そこへッ!!
「このピラミッドは全長○○メートルよッ!!」
 頼んでもいない観光案内を大声で叫びながら背後から捨てられた女ミア・ファローがいきなり登場します! 
うぎゃーッ!!
 
 当然ロイスさん:「何つけてきてんのよッ!」
 速攻ミアさん:「ただ単に観光にきたのよ」こんな見事な「しらばっくれ」も滅多に聞けません。
ミアの元彼:「気にするなよ」
ロイス:「おぼえてやがれ」
 捨てゼリフを吐いてピラミッドを後にしますが、こんなのはストーキングの初歩の初歩だったのです。


●いなきゃいないで怖いミア


 さて二人もバカじゃありません。こっそりチェックアウトしたフリをして隠れ、見事ミアさんをまきます。
「やっと二人っきりねッ!」
 ナイル川クルーズが始まり、ようやくホッとするロイス夫妻。ここから観客はずっと
「いつミア先生が飛び出してくるのだろうか……」
 というイヤーな緊張感に襲われることになります。私など画面の端にナイル川が映るたび「あそこからヌッと手が飛び出てくるんじゃないか……」
 とドキドキしたものです。ご高齢の方は「救心」を常備なさって下さいね。責任おいませんよ。さて肝心のミア先生、タメにタメたあげく意外なトコから飛び出してきます、ここはゼヒ本編を見て大笑いなさって下さい。


●東の魔女と西の魔女


 さて、本筋はこれからミステリーらしく、ロイスをめぐって利害のある人間がふんだんに登場、ナイル川上の豪華客船で因果がこれでもかと渦巻くのですが、そこはさておき女の【対決!】としては必ずおさえておくべきポイントが二つあります。


アンジェラ・ランズベリーさん


ジェシカおばさんの事件簿」しか知らない方は度肝を抜かれるでしょうね、今回演じてる役は「セックス関連の言葉ですべてを表現するアル中の作家」
です。え? 何がなんだかわからない? でしょうね。でも事実なのです。全編を通じて「派手なミミズク」にしか見えないファッションと「ディヴァイン」にしか見えないフルメイクで男にカラミまくります。最後の死にっぷりは必見。あんな強烈で度肝を抜かれた死にっぷりは初めてでした。


ベティ・デイヴィスさん



「真珠が異常に好きな金持ち」という役です。
 ポアロ名探偵は「ロイスさんの真珠を盗もうとして、バレそうになって殺したんじゃないか」と推理します。ですが「真珠が好き」というだけで殺人動機になるとは到底思えません。しかし、この人が演じると「ああ……こ、殺しちゃうかもねえ……」と自然に納得できるのです。いやだからホントに。そうとしか言いようがないんだものこの人。
 私は「顔力」でこの人より凄い人、見たことないですよ。1000年にひとりの方だと思ってます。もう観られるだけで有難いですね。


 この他にも「こんなモッタイない使われ方していいのかッ!?」とビックラこく「ジェーン・バーキン」とか、ひたすら地味な扱われ方をする「オリヴィア・ハッセー」、やたらベティ・デイヴィスをぞんざいに扱うのが超スリリングな「マギー・スミス」とか、女優たちの見どころイッパイ。お腹イッパイ。
なんといっても全編通じてミア・ファローが素晴らしいです。というより怖いけど。「3本1000円」的レンタル屋などで3本目「何しようか」迷ったときなどかなりオススメ。くれぐれも女の対決に焦点を絞ってご覧下さい。
 ありがとうございました。


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