「階段落ち」の人々

田中絹代さん


 うーん昨日の日記、読み返してみてもコーフンしてるなあ、私(笑)。
 あはは……鼻息の荒い文章だ。まさに「ペンを取らずにはおれなかった」みたいな、ありがちな表現がピッタリの語調ですね。まあ実際はペンでなくキーボードなのだけれど。


 さて今日は、昨日の回における「麗しき鬼」の1シーンが私に思い起こさせた、とある連想をちょっと書きとめておきたい。
 題して「ああ役者根性・階段落ちの系譜」。

 昨日の「麗しき鬼」における女二人のいさかい、その見事さはすでに書いたとおりだ。特に遠野凪子、その「闘志に燃えるまなこ」の素晴らしさは、最盛期のファイティング原田にも匹敵。と、また「凪子ハレルヤ」終始してしまいそうな私だが、今日書きたいのはこの二人にバトルにおける「階段落ち」のこと。


 刃物片手にもみ合ううち、足を滑らせ、物凄い勢いで階段を転げ落ちる二人。多分これは吹き替えだったと思うが、にしても壮絶な落ち方であった……スタントさん、偉い。グルグル回る凪子と金子さやかを見ていたら、私の脳裏にとあるイメージが自然浮かんできた。それは、今までの映画・ドラマにおける階段落ちシーンの数々……。


 なんといってもその最高作はやっぱり『蒲田行進曲』でしょう。平田満演じる役者バカ・ヤスの転げっぷり……なんのためらいもなく、思いっきりゴミみたいに転げ落ちてくる。あのとき平田満は撮影前、何を思ったのだろう。「死んでもいいや」と思ったんじゃないだろうか。


 それから市川崑監督の隠れた名作『幸福』(1981)、この作品にも水谷豊の階段落ちのシーンがあった気がする。犯人を追う刑事役の彼が、安アパートの金属製の階段から転げ落ちるんだが……私は本気で、豊を心配した。落ちきったときなんかね、三歳児が針金の人形をいじくりまわしたみたいなんだもの。豊の体があらぬ方向に曲がってるように見えた。こちらも多分スタントではないと思う。


 そして驚くなかれ、日本が生んだ大女優・田中絹代(トップ画像参照)もかつて階段落ちにトライされているのだ。小津安二郎監督の『風の中の牝鶏』(1948)という作品なんだが……スタントかなあ!? もし本人だとしたら、見事の一語。
「本当にハプニングで滑っちゃったんじゃ?」と思えるぐらいナチュラルに転げ落ちる絹代。さらに本編、不幸な暗いストーリーなので、痛がる絹代が哀れで惨めでこの上ない。あらゆる点で「苦痛度」では1位かもしれない。


 階段落ち、というのは大体ドラマにおいて3つの意味合いに分かれると思う。先の『風の中の牝鶏』のように、
1:悲劇のクライマックス、その象徴としての意味合いを持つ場合
 それから
2:階段を落ちてする「怪我」が、ドラマ上大きな意味合いを持つ場合
(『幸福』では、水谷豊が足を折りつつ捜査に臨む姿を通して、執念とか刑事のサガみたいなものを描写していたと思う)
 そして3つめ、
3:「流産」を引き起こす要因としての場合


 まあこれも大きな意味では1・2に含まれるんですが、あまりに多いパターンなんで独立して立ててみる。今回の「麗しき鬼」でも当然のごとく金子さやかは流産していた。というか、中島丈博の脚本で誰かが妊娠したら、まず9割はスムーズに生まれないと考えていい。この手の「階段落ち流産」の祖にして原型は『風と共に去りぬ』のスカーレットでしょうね。
 と、今日は意味もなく「階段落ち」について考えてみました。


○追記1
 階段落ち、というのはドラマ上の必然があってこその「華」ですね。最近はただアクションシーンの「見もの」的存在だったり、派手さを増したいがためのケレンとして安易に使われることが多い気がする。階段落ちの安売りなんて、やる俳優もスタントさんも浮かばれないだろう。
 

○追記2
友人によると、さっき私が並べた階段落ち映画など「目じゃない!」「見たらトラウマ必至」という、もんのすごい階段落ちがあるのだそうな。ドラマなんだが、堀ちえみ主演の「スチュワーデス物語」に相当強烈なシーンがあるそうだが……有名なシーンなのか?? ご存知の方いらしたら教えて下さい。



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