『ミルク』

 ダメだ。冷静になれない。
 最近映画を観るたび、どーーーーーーーーーしても
「ええっ……! こっ……これがあの『グラン・トリノ』と『チェンジリング』よりも結果的に評価されたなんてっ……!?」
 という思いに駆られて仕方ない。比較してしまう。いや、それだけクリント2作品が素ッ晴らしい出来なんですよ。無視、というか子供じみたアカデミーが許せない……などと詮無いことを呟く最近ですが、今日はそんな(どんなだ)映画感想メモ2本立てです。


□『ミルク
 ガス・ヴァン・サントは感情的になり過ぎている。
「この男のことをフィルムに残しておきたい!」
 使命感で映画を作るとロクなことにならない。そういう情熱は演出を鈍らせる。『エレファント』でみせた「事実」に対する彼一流の洞察力・脚色力が感じられず、残念。
「すごい男がいたんだよ! まあ……だらしないとこもあったけど、でもやっぱあんな人は滅多にいないわ」
 飲み屋で話聞いてるかのように、シーンが時系列に続いていく。何より悔しいのが、彼らしい映像のキレの良さが観られないこと。唯一、それが光ったのがモスコーニ市長の殺害シーンだ。あの乾燥感は彼しかつくれない。
 ショーン・ペン、いいんだけどねえ。でもなあ、『グラン・トリノ』のクリント・イーストウッドより素晴らしい演技とは到底思えないんだ。いわゆる「熱演」(何度もここで書いているけれど、私の使う『熱演』とは決して褒め言葉ではない)。
 ハーヴィー・ミルクが残した言葉自体が持つ感動と映画的感動を混同しがちな一作。


□『スラムドッグ$ミリオネア


 まず、相性が悪かった。
私は
1:「つらい境遇にいる子供」
 というテーマと、
2:「ぬれぎぬを着せられる」
 というテーマが、もーダメなんですわ。冷静に観られない。許せない。
必要以上に感情移入してしまうというか……観ている間、ココロがもう「義士」ってな気分になっちゃうんですね、そう、まるで時代劇の志士のような大仰な気分になって悪漢を憎み、呪い、セーバイしたくなってしまう。
ワルモノがひどいことするたび
「おのれなんという卑劣な!」
「武士の風上にもおけぬ!」
 こんなセリフが脳内でいちいち飛び交うんだこれが。だからまー疲れることこの上なく。えらい古い例えですが、『おしん』だの『ミッドナイトエクスプレス』だの、観終わった後そりゃーヘットヘトでした。だからどうした。(余談ですが今でも私は『おしん』に出てくる“つね”という女を許していません)
 まさにこの映画もその手ドンピシャ。インドのスラム街の少年が主人公なんですが、幼少期からお兄ちゃんにイケズされまくり、親が殺され、ゴミ捨て場で生活してりゃ裏組織に連れていかれ物乞いをさせられ……という展開。
(「そのほうが哀れを誘い金を稼ぎやすい」という理由だけで、目をつぶされそうになったりするのだ!)
 クイズ番組に出て勝ち進めば「スラムのバカが正解できるはずない! インチキだ!」と連行され拷問。
 はいわたくし、ココロはもうアムネスティでした。ストーリーうんぬんよりも、
「こっ……これどこまで楽しんでいいものか? これは誇張? それともインドってこんな現実なの? ヤクザ映画やマフィアものみたいに純粋にフィクションとして楽しんでいいの?」
 と、「?」ばっかりで話に身を委ねられなかった……。
 すべて「ツボをはずさない」演出で、お約束な展開をソツなくみせるという印象。これまた「なぜこれがクリント2作品を押しのけてまで……」というフンマンやるかたない気持ちに。『トレインスポッティング』のダニー・ボイル監督作。まさにそういう映像。独自の確固たる映像世界、というよりも……「固執感」が漂う。



○付記

杏の花。日比谷公園そばにて発見。


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