最近の映画メモから

ラストシーンも酷い


 うまれてはじめて試写室で「最低!」と声に出して叫んでしまいました(本当)。
 あはは、まだこんなパッションが私の中に残っていたとは。ハタ迷惑だねえ……でも、こらえきれなかったのだからしょうがない。『ウルトラミラクルラブストーリー』という映画の話。
 津軽の農家が舞台なんですが、野菜を粗末に(というか愚弄)するシーンの連続なんですね。そこに、なーんの意味もないの。主演は人気者・松山ケンイチなんだが、生まれっぱなしみたいな青年役。ひょーっとしたら「天衣無縫なキャラクターの表現」なのかもしれないけど……私は、まったくノレなかった。青くさく怒ってしまう。
 私の祖父母は農業を営んでいた。ちいさなキュウリ一本育てるのにどんだけ苦労するか肌で知っている。そういう農家の人間なら絶対にしないことを嬉々としてやる主人公。
 子供殺しのシーンがあろうと、動物をブチ殺すシーンがあろうと、それを描く「必要とドラマ」がフィルムにあれば否定的怒りは生まれない。でも、まったくないんだよ! この監督は実際に自分の心に「みえていない」シーンを確信なく映画にしてしまっている。そこが、私には許せなかった。
 と、イキオイで書いてますが……あはは、イキがってるなあ、でもねえ、日本映画の悪口は絶対に表立っては(署名では)みーんな書かない。だから、私は書く。はい、何を偉そうに書いてるんでしょう。いつものおバカに戻って、今日は最近の映画象メモをつらつらと。


○『余命一ヶ月の花嫁』

監督:廣木隆一 出演:榮倉奈々 手塚理美


 男優二人の好演に支えられる一本。まず瑛太から。
 巧いッ! ラストシーン、ひとり芝居なんですよ。ワンカットなんだが、表情だけで様々な思いと情緒をかもす巧さ。映画は、撮りようによって演技せざるものからも名演を引き出せる面があるが、そーいうんじゃない。このラストシーンは、演技というよりも芝居だ。
 今はもうこの世にいない花嫁を思い出し、ふと悲しみに襲われる。だが同時に、自分が包まれていた愛も思い出し、それをいつくしむような表情を見せて、サッと後姿で去っていく。これを何秒間のうちにあざやかにみせてしまう瑛太。私は思わず「大向こう」をかけそうになってしまった。この人は舞台をやるべきだ。と、思っていたら8月に『牡丹灯篭』やるんですね。絶対行く。そして花嫁の父、柄本明がさりげない名演でこれまた結構。役者の力、見せて頂きました。





○『バンコック・デンジャラス』
監督:オキサイド&ダニー・パン(『the EYE』)



 「強そうなモト冬樹」、ニコラス・ケイジの主演作。
 超一流の暗殺者という役なんだが、もうこのキャラが矛盾炸裂でおかしいったらない。「いーじゃないのーなんだってー」「エンターテイメントだよーん!」ってな監督のホガラカな声が聞こえてくるかのよう。暗殺に関わった人者は味方だろうと皆殺しにする非情の完全主義者がソッコーでマジに落ちたり、憎めない若者を弟子(!)にしたり。あっはははありえねー。でもニコラスには迷いがありませんね。「そういうやつなんだよ」とゴーインな押し切りでガンガン演じ切ってゆく。こちらも「そういうやつなのね」と不思議に納得。耳の不自由な女の子が恋人なんだけど、聞こえないのをいいことに見てない隙に暴漢ふたりを5秒ぐらいでブチ殺しちゃったり。もうなんでもありの展開に大笑いさせて頂きました。
 タイの人気俳優というシャクリット・ヤムナームがいい味。



○『デュプリシティ スパイはスパイに嘘をつく』
監督:トニー・ギルロイ(『フィクサー』)出演:クライヴ・オーウェン ジュリア・ロバーツ


 スパイ同士が裏の裏の裏をかき合う、という展開の連続に鮮やかさよりも疲労を感じる。大した駆け引きじゃないだもの。手がけているヤマはデカイが、やってることがセコいんですよ。ジュリア、機密を盗むのに「Hして寝てるスキにコッソリ」って……世界的諜報合戦の世界に「福田和子的世界」が入ってくる違和感。H(この言葉の安さが物語を一番よく表している)したあとにグウグウ寝ちゃう一流スパイってどうよ。




○『サガン
監督:ディアーヌ・キュリス 出演:シルヴィ・テステュー

 いうまでもなくフランソワーズ・サガンの自伝映画。
 私はまったくなのだけれど、サガンの小説や映画に青春時代、心奪われた人ってのはとても多いよう。そういった方たちには特別な感慨があるんだろうなあ。
 うーーーん。しかし、この監督はサガンの心の中よりも、その人生出来事を追うことでエネルギー使い果たしてしまったようだ。「いつみても波瀾万丈」のVTRみたいになっちゃって。サガンにとって「普通」のことを、この監督は「普通」と思えていない。だから物見遊山的な目線が入る。そこが、邪魔だ。

 そして思いっきり蛇足。高校時代、文学少女の知り合いがいた。彼女が当時、サガンを読んでいた。
「それ、面白いの」
「うん」
「かしてよ」
 そういったら、フッと鼻で笑って、静かに言った。
「男の子の、読むものじゃないわ」
 あれは完全にサガンの世界に酔っていた。あの子は服を着たままプールに飛び込んだりしたのだろうか。
 4月23日の週刊文春阿川佐和子対談にサガンの子息が登場していて、「あんな風に描かれましたけど、実際は随分違うんですよ」と細々語っていて興味深かった。



○『重力ピエロ』
監督:森淳一 原作:伊坂幸太郎 出演:岡田将生 加瀬亮 鈴木京香 小日向文世


 岡田将生の時分の花! ファーストシーンとラストシーンがとあるリンクをするんですが、これがいいんだ。なんと映画的なことだろう。彼は、映画俳優だ。テレビに出してはいけない。映画俳優だけが持つ、フィルムの中での輝きとストーリーとが一体となったときに生まれる“きらめき”が先の2シーンにはあった。繰り返すが、映画的。そういうシーンがワンカットでもあれば、それはいい映画だと思う。
 そして蛇足。冒頭のシーンに出てくる女子高生、腹パンされて「ウウッ!」と出す声の見事なこと。キレイぶらない演技に拍手を贈りたい。またストーカーの女の子、高校時代の写真の「笑わせまっせ」という気合いにシビれました。森監督、けっこうサービス精神旺盛なんですね……素晴らしい。



○『幸せのセラピー』
監督:バーニー・ゴールドマン 出演 アーロン・エッカート エリザベス・バンクス ジェシカ・アルバ


 ジェシカ・アルバ、ねえ……。うーーん。いや、確かにカワイイと思うんですけど……なんていうか、社内中で『あのひと社長の愛人らしいよー』となーんて噂されている美人受付嬢みたいに思えちゃうんですねえ。なんて失礼! ごめんさない。グラビアでしか輝かないタイプのひとじゃなかろうか。彼女、主演級にクレジットされてますが、脇役です。
 しっかし「品行方正」なコメディだ。50年代の作品のように「お上品」で、エリザベス・バンクスの下着姿が「お色気シーン・もうこれでサービスギリギリ!」ってな具合。「社長シリーズ」アメリカ現代版のよう。





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