鏑木清方の『鰯』はショート・ムービーだ!

『築地明石町』



 いきなりですが……日本の美術館の名前って、どーにも素っ気ないなあと思いません? 
国立西洋美術館」「国立新美術館」「東京都国立近代美術館」「東京現代美術館」「東京都美術館」……ああもう漢字ばっかり! 直截的なんだけどさあ、どーにも味気ないというか、色気がないねえ。インフォメーションを聞いたときに、パッと「ああ、あそこね」とイメージしにくいのだ。
 昔の日本人ってこういう名前にこだわったというか、風雅なネーミングのセンスを持っていたんじゃないのかなあ。
 公営のものってとかく
「誰からも文句をつけられない無難なものにしましょう」
 という発想になるからなあ。まあ仕方ないのだけれど。でもあのロシア人が「隠れ家」を意味する『エルミタージュ美術館』なんて素敵な名前の美術館を持っているかと思うと、ああクヤシイ。
 イタリアの『ウフィッツイ美術館』も、元が「事務所(ufficio=office)」だったから、なんてのもいーじゃないか。アメリカの『MoMA』(The Museum of Modern Art)ってのも、「これじゃーつまんないよー、愛称で呼ぼう」という心意気が感じられる。なんとかならんのか、日本!
 と、どうにもまとまらないイントロでしたが……昨日の続き、常設展の感想を。


青木繁、そして「自画像」というもの


 まず入るなり、青木繁の絵があっていきなりテンションがカーンと上がる。
 本当に小さな絵なんだけど、何かがうずめている。昨日描かれた絵のように、なまなましい。力強い音楽が聞こえてくるような絵だ。
 そして、色。優れた画家というのは、例えば「赤」なら、「赤」以上に「赤い」色を描き出す。この作品も、見たこともないような「みどり」がそこにあった。

 そしてその隣には岸田劉生佐伯祐三の自画像。特設展ではゴーギャンの自画像も展示されていた。
自画像というのは、「自我像」なのだな、と思わされる。自らを画家が描くということは、自分とは何か、というものの追求に他ならないのだと思う。


■生活風俗と密接した日本画


 一転して日本画の世界、鏑木清方の屏風絵に圧倒された。日本画に馴染みがなくても、トップに貼った絵(『築地明石町』)を見たことある人は多いんじゃないだろうか。切手にもなったしね。
 さて、こんな大きな清方の作品を観るのは私は初めてだった。もうガイジンがオオヨロコビしそうな「ザッツ・ジャパネスク」。舟遊びを主題としたもので、その名も『墨田川舟遊』。
 手前に何人もの女が乗った舟を描き、絢爛たる色彩の美が広がる。御簾越しの姿なんて巧緻極まりなく、まさにこれ「閑雅」たる風情。
 けれどもねー、こういうゴージャスな美もいいけれど、屏風のスミの方、小さく描かれた渡し守の姿がまたいいんですよ。霞の向こうに地味な老人が漕ぐ一掃の舟があるんだけど、これがなんとも情趣がある。ただ「キレイキレイ」な絵じゃなく、江戸の生活というものがライブに感じられる絵なんだよね。

 もう一作、『鰯』という清方の作品が……なんだかねえ、感じ入ってしまった。止まっているんだけど、映画を観ているような気持ちになる絵だった。
 おさんじを過ぎた頃だろう、夕飯の支度をしているらしき女が、鰯売りの少年と話しをしている。少年は後姿で、十三、四ぐらいだろうか。くすんだ藍の着物には汗が滲んでいるようだ。「尻っぱしょり」からまっすぐ伸びる脚は、はたらきものの脚だ。毎日重たいものをセッセコ運んでいるのがわかる、ふくらはぎ。それと対になって、三十路ほどの女の体は縞の着物に包まれ、なんとも優しい、柔和な線が強調される。角には、走っている子供の後姿。「おかあちゃーん」という声が聞こえてくるかのよう。
 この作品画像検索で出てきますが、当たり前なんだが本物とあんまりにも違うのでアップしませんでした。なのでゼヒゼヒ、ご興味のある方は足を運んでみてください。



木村荘八


 今回はじめて知ったが、山本森之助というひとの絵が素敵だった。入江の絵。ちょっと古びているけれど、なーんて澄んだ海なんだろう! 昔、下田で泳いだときの気持ちがパーッと蘇った。見た瞬間に感覚が蘇る絵が好きだ。
 それから木村荘八の『新宿駅』という絵の前から随分動けなかった。
 戦前の新宿駅を描いているのだけれど、人々の話し声や世間話が聞こえてくるかのよう。る新宿駅という場所のにおいが漂ってくる。優れた絵というのは、今そこに切り取られているアングル以外の情景もおのずと映し出す。なんだかこの絵の左右や反対側が、今にも見えてくるかのようだった。





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