ロメール特集『冬物語』『恋の秋』


 冷たい雨の日。台風が来てるんだそうだ。帰ってもらいなさい母さん。
 何するものぞと高田馬場早稲田松竹へ。エリック・ロメールの特集を楽しみにしていたのだ。怠惰に負けるもんかと昼過ぎに到着。もー雨だしロメールだしガラガラかと思いきや、な、なんと7割がた席が埋まっているではないか! それも「ザッツ映画オタク」といった雰囲気の人々ではなく学生さんが多い。それもいたってフツーの男の子&女の子といった感じ。
 おおおすごいなあ、人気あるじゃないかロメール! 
 なんだか嬉しくなる。贔屓の監督上映が混んでるというのは、不思議にアガるもんだ。今日は『冬物語』『恋の秋』の2本立て。



 まず『冬物語』(1991 『conte d'hiver』)から。

 主人公の女の、説得力も客観性も何もない恋愛における自己主張がとうとうと語られていく。それも主張というより、もっと感覚的なもの。これがまた本当に愚かというか大したことないんだ。
「顔が好みの男と恋愛したいけど経済力も大事」
 みたいなこと本当に言っちゃうんだもの。ああ、文字にするとめまいしそうな内容なんだけど……キチンと「映画」になってるんだよね。これがロメール調なんだよなあ。
 それでこの女が中々美人なんだけれど、男に対して大事にしていると語る「顔」も「経済力」も、選んだ相手がさほど大したモンじゃない、というのも効いている。
 本当に勝手な女なんだけれど、最後のハッピーエンドで観るものに「よかったねえ、幸せになるんだよ!」と思わせちゃうのだから、やはりロメールは、凄い。
 私は、「あらすじの書きようのない話」というのが本当に好きなんだ。

 ラストに一瞬マリー・リヴィエールが出てくる。やっぱりいい女優だ。このひとは映像演技者に最も必要な「印象的であること」という美点を持っている。


 そしてもう1本、『恋の秋』(1998 『conte d'automne』)。
 先のマリー・リヴィエールが主演者のひとりとなる。これも実にいい映画だった。
 日常、ふとした瞬間に自分でもどーしてそういう気持ちになってしまったのか、分からない感情にとらわれることがある。なんでこんなこと思っちゃったんだろう、ってな一瞬。
 何年来もの友達になぜかその瞬間だけ「ムラッ」としてしまったり。イヤじゃないのになぜか「イヤ」という言葉が口をついて出てしまったり。すごく好きなひとなのになぜか意地悪してしまったり。
 エリック・ロメールはそういう人間の「なぜかわからない行動・衝動」を、フィルムにおさめる天才だと思う。アクシデントとしての「人生のかけちがい」が淡々とフィルムの中で連鎖して、実にユニークなストーリーになってゆく。それが、ロメールの醍醐味だ。
 ちょっとした不満は、この映画に出てくる若者がどれもみな私には魅力的に思えなかった。老境になってロメールは若い人の趣味が悪くなったと思う。『クレールの膝』とかの頃は凄かったのになあ。アマンダ・ラングレを見い出した人とは思えない人選だった。


○付記

 4日の午前中に訃報報道があり、7日の水曜日にもう雑誌になるのか! 5日17時ぐらいをデッドに取材・原稿を書き上げ同時進行でデザイン替え、6日14時ぐらいまでに中吊り刷り上げてその後全国配送、翌日7日早朝に配本か。2日ぐらいまるまる寝ていないんだろう。取材力ともども恐れ入る。



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