さよなら歌舞伎座、さよならなのか雀右衛門
初春大歌舞伎の初日。
東京・木挽町は歌舞伎座に駆けつけた私の心は揺れに揺れに揺れていた! こんな気持ちは……ああ懐かしの「受験発表」以来。求める「こたえ」がすぐ目の前にあるのに、直視したくない……でも早く安心もしたいっ!
私の懸念はただひとつ、「現代最高の女形・中村雀右衛門(じゃくえもん)が今日、出るのか、出ないのか!?」ということだった……。
京屋(雀右衛門の屋号)に出会ってしまったから、私は歌舞伎ファンになったといっても過言ではない。ファム・ファタールならぬファム・オンナガタール。大学時代はまさに「追っかけ」、毎月何度も通ったことも。
ここ2年ほどは高齢のこともあって(大正9年生まれ!)舞台を控えられていた。もう観れないだろうと、さびしくも諦めていたのだったが……それがまさかの復帰発表!
しかし、ここで容易に喜んではいけないのだ。歌舞伎では「やっぱり休演」ということが非常に多い世界(なんせ高齢の俳優が多いから)。もしくは3日ぐらい出て休演とか。なので、チャンスは初日。観れるとしたらこの日しかないと思った。ここで出なければ、1ヶ月丸々休演になってしまう可能性が非常に高いのだ!!!
はやる気持ちを抑えつつ、そばにいた「塩見三省」似のベテランっぽい係の方に訊く。
「あの、中村雀右衛門さんは……」
三省は「じゃく」ぐらいの音が聞こえた瞬間「あちゃあ」という表情を一瞬見せた! そして申しなさそうに、
「……休演に……なっちゃいました……」
(暗転)
あは、あはははは。
もうね、しばらくボーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゼンですよ。単純な言い方だけど、「心にポッカリ穴があいた」って、うまい表現だね。まさにそんな感じ。動揺して愕然とする私に
「ちょっとごめんなさい、シャッター押してくれません?」
坂東眞理子さん似のおばさまが笑顔で近づいてきます。
「あ、この『さよなら歌舞伎座』のカウントダウンの電光掲示板の前でね、すみません〜(笑)」
はいはい、いいですとも……はいこれでいいですかー。あは、あははははー。
「あら、私もお願いしていいかしらー?」
3組写真撮らせて頂きました(本当)。こんなことするために私クソ寒い中を木挽町まできたのかしらん……。
まあ、ねえ……。
予想してなかったといえば嘘になる。関係者からは
「舞台稽古、ジャッキー(雀右衛門の愛称)来なかったんだって。休演かもねえ」
などと先行き暗い情報が入っていたし、その後、役者友達に聞けば「足が相当お悪いみたいなんだよね。松竹が安全策でストップかけたのかも」という情報も。
おからだ第一ですが……1日だけでもいいから、舞台に立って頂きたかった。
雀右衛門出演予定だった舞台は、長唄の新作舞踊『春の寿』。代役は中村魁春(かいしゅん)。
出だしの歌の文句からして
「向かい雀の飛び交いて ご贔屓重ぬる京屋結び 目出度かりける年初め」
中村雀右衛門をことほぐ内容だったというのに。
ああ、そんなこといってもはじまらない!
夢を……買ったっていうんですか(涙)。そう、そう思いこむことにしよう。初日のチケットは私にとって「年末ジャンボ宝くじ」みたいなものだったのだ。そうそう。
いい夢、見させて頂きました。
ジャッキー、くれぐれもお体大切になさってください。これでさよならに、しないでね。
その他の感想は、また明日。
□付記 『春の寿』雑感
幕開き、板付きで平安朝の男女が並ぶ。在原業平、小野小町の見立てで中村梅玉、中村福助のふたり。梅玉はこういう「こしらえ」が本当によく似合う。典雅だ。
福助、気合が入ったいい踊り。しかし、「決まり」はいいのだけれど、そこから次の決まりに移るさいの「つま先」がよろしくない。簡単にいうと「外輪(そとわ)」が目立って気がそがれる。女形の踊りの美質を構成する大きな要素は「白足袋のつま先」にあると、私は思っている。ここに色気が出るか出ないかがポイントだ。
後半、女帝を中心に従者を9人も従えて、せり上がり。京屋がシンならばさぞ……と思うけれど、魁春にもそれなりの格を感じる。このかたはいつまでも、邪気のない真っすぐな芸質が魅力だ。誰なのだろう、左から2番目の従者がよろしくない。「かまえ」の位置が高すぎる。そういうことはとても目立つのだ。振りが後半、妙に江戸っぽくなり動きすぎる。この手のこしらえに間の細かい振り付けはおかしい。
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