松井誠という「おのこ」

 みなさんはご存知でしたでしょうか……。
 松井誠が、山田五十鈴の「芸養子」であることを!
 知らなかった……知らなかったよ……。昨日それを知って私は随分とまあ驚いてしまった。信じられなかった。
 「芸養子」って耳慣れない言葉だとは思いますが、主に古典芸能の世界でのシステム。近年の例で一番有名なのは、坂東玉三郎だ。
 歌舞伎界のみならず、世界的に有名な女形玉三郎。あの方は元々フツーのおうちの子供なんですね。しかし小さい頃から日舞に天賦の才を見せ、歌舞伎が大好きだったこともあって子役になった。並々ならぬ努力、そしてきらめく才能は群を抜いており、守田勘弥という歌舞伎役者が「この子を芸養子にしたい、うちの跡を継がせたい」とまで思わせた……(「坂東玉三郎」というのは、守田家の名前)。
 実の養子ではなく、芸の上での名跡のみを継ぐという意味での養子、と思って頂ければいい。
 と、ここで話は戻る!


 つい先日、私がミクシィでやっている「女の【対決!】映画」というコミュの書き込みで教えてもらったひとつの記事。それは日刊スポーツ2月9日の記事だった(以下囲み引用はすべてこれ)。
「“母”山田五十鈴との深いきずな」

 松井は彼女の「芸養子」(芸を継承するうえでの親子関係)になり、いまも交流が続いている。 きっかけは、松井が主演した「女形気三郎」(ジョージ秋山原作、1994年)を山田が観劇したこと。
終演後に楽屋を訪れた山田は「あなたには、長谷川一夫さん(映画スター)の色気と花柳章太郎(新派の女形)さんの品の良さがある。いつか一緒に舞台をやりましょう」と声をかけた。
 それから4年後に東京・帝国劇場での「花のうさぎ屋」で実現。松井は山田の息子役に抜擢され、彼女の数少ない「芸養子」として認められた。

 
 そっ、そうだったのぉおおお!? 
 もうハクオー、記事を読んでて頭ン中「?」でいっぱい。「芸養子として認められた」って……いったいどーーーいうことなのか。御披露目とかしなかったの!? じゃあなに、松井誠いつか「二代目 山田五十鈴」とかになるわけ!? 

 なるわけない。ていうかですねあなた。
 「芸養子」って……そんな簡単になっちゃって、いーもんだろうか。息子役やったぐらいで認めちゃって、いーもんなんだろうか。
 少なくともさあ、最低でも何年か山田五十鈴に付いて、日々身の回りの世話なり、セリフ合わせの相手なり、衣装着付の手伝いなりしてはじめて、「これが私の芸養子です」「芸養子に認められました」って公言するのが筋なんじゃなかろうか(って、勿論山田五十鈴本人が良ければいーんですけどね。笑)。
 この文面の限りだと、『花のうさぎ屋』の相手役をつとめたのち「芸養子」にポンとなったように読めてしまう。そりゃあ……「長谷川一夫の色気」と「花柳章太郎の品の良さ」が本当にあれば、そんな「芸の飛び級」も可能かもしれないが。
(松井誠氏のHPではプロフィールにしっかり「1998年帝劇にて大劇場初舞台。この公演でその芸量を認められ、山田五十鈴丈の芸能上の養子としてむかえられた」と明記されている。ああ……ますます分からない!)。
 

 昨年のある日、携帯電話へかかってきた声に、松井誠は驚いた。それは、2002年から病気療養を続けている山田五十鈴(92)からだった。「母上ですか!」と思わず声が弾む松井が「早く元気になって、一緒に舞台に出ましょう」と続けると、「恋人役じゃないと嫌よ」と山田。こんな“母子”の会話がしばらく続いた
(中略)
 そしていま、山田は舞台復帰を目標に療養しながらリハビリを続けている。演劇関係者など面会できる人が限られているなか、松井は年に数回は訪問、昨年末も会ってきた。

 「一緒に食事をしていると長谷川(一夫)さんの思い出や歌舞伎のセリフを言われたり、ずっとお芝居の話をされています。母上のそんな一言、一言が私の心の中にすっと入ってきて…。お互いにがんばろうね。一緒に舞台をやろうねと励まし合っています」。


 あは、あははは……私の中に湧き起こる、不思議な感動。
 松井誠、凄い。凄すぎる……。「年に数回の訪問」で山田五十鈴に「恋人役じゃなきゃ嫌よ」といわせる男、「芸養子」であるといえる男。それが、松井誠。
 そしてロマンスの相手は、あの浅丘ルリ子なのだ!


(おふたりのデュエット曲)


 以前の熱愛会見では、「一生、おそばにいさせてもらいます。でも悪いわね、私で(クスッ)」と微笑んでいたルリ子。あの大女優が、少女のようにはにかむ男。それが松井誠。
山田五十鈴の芸養子」というのに私は最初、随分と怪しげなニオイを感じてしまった。私も随分と昭和の芸能史を、それも大女優フリークとして見つめてきたつもりだったけれど、そんなニュースは聞いたこともなかったから。もし山田五十鈴サイドからそういう発表があれば結構なニュースになっただろう。
 私は昨日このことを知って驚き、ツイッターに書いた。そして今日「山田五十鈴 松井誠 芸養子」でグーグル検索してみたら、私のツイットが上から3番目だったのには笑ったが(つまり殆ど記事になってもない、ということね。上から2つは日刊の記事だった)。ちなみに14日夜現在。


 と、書いていてまた……不思議な気持ちになる。
 こういう「濃厚な」芸能人が、現代に在ることのほうが……豊かで、楽しいことにも思える。
 山田五十鈴を母と呼び、浅丘ルリ子をハニーと呼ぶ(かどうかは知らないが)。そんな……懐かしき「ドンファン」の香りする人間が、この世にまだいる。うーん……なんだか貴重なことに思えてきたぞ。
 ご本人は絶対に否定されるだろうが、「籠絡」という言葉がこれほど似合う男もいない。これぞ鯉の滝登りならぬ、恋の女優登りってなもの。下衆だな。すみません。
 でも最近、この「籠絡」という言葉はすっかり女子、それも女子アナのものになっていたような気がする(あ……もともと女のひとのものなのか?)。そして「籠絡」という言葉が、なんだか「人生設計、高めに上がりました!」みたいな堅実感を伴っているようで、つまらなく思えていた。
 松井誠の「籠絡感」には、そういう堅実さがあるようで……ないように思える。山田五十鈴が帝劇で「五十鈴十種」をバーンと張った大座長時代ならともかく、今の彼女になんらかの権力があるとは思えない(だからそういう目的じゃないんだって、と松井氏は仰るだろうが。笑)。
 ルリ子もしかり。聞けば地方の松井誠公演にも、ルリ子は同行しデュエットやトークを披露することもあるんだという。なんとまあ、健気というか一途というか。「おまえを道づれに〜♪」という旧時代のメロディが聞こえてきそうな道行ぶり。
 すっごく直球な「立身」を求めているようで、さにあらず、なのか。実はどっぷりと芸道、人情の世界に足元が植わっている人なのかもしれない。そこが、役者として何かを邪魔しているのかもしれないが。
 ああ、「〜かも」ばっかりの文章になってしまったなあ!



○追記
 気になるのは、もし「芸養子」が本当だとして。今後、「五十鈴十種」を誰か他の女優がやるとしたら、松井誠に何らかの了承が必要なるのだろうか?


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