『東京の休日』
最近の神保町シアター、好企画を連発してるなあ!
その名のとおり神保町にある名画座なんですけどね、このブログでもたびたび登場しているが、観やすくて、きれいで、いい劇場(と、書いて「こや」と読んで頂きたい)なんですよ。
今やってるのが、「オールスター映画特集」。映画全盛時代、盆暮れになるとこーいう「顔見世映画」ってのがあったんだそうですね。スター総出演の娯楽作。そういうのを集めた特集です。
(参照 →シアターの公式HP)
この日、19日に観てきたのが『東京の休日』(’58)。李香蘭こと山口淑子引退記念作品です。これ観たかったんだよなあ。
「アメリカから凱旋したデザイナーに近づく人々の胸算用を描く豪華なコメディ」パンフレットからのあらすじですが、もちろんデザイナーに山口淑子。役名が「メリー川口」ってのがまぁ……時代ですね(笑)。
今日はその感想メモ。すっごい長いよ。
●あの三好栄子がッ!
いきなり分かる人しか分からないネタですが……ファースト・シーン、日本に向かう機内の中。あの三好栄子が洋装で登場しちゃうんだこれが。黒澤明映画の常連脇役で、渋くて地味なおばあさん役が多い人。いやもう……度肝抜かれました、笑わせて頂きました!
移住した日系一世という設定らしく、まードレッシーなお召し物で、英語と日本語チャンポンで会話なんかしちゃう。器用な人だったんですね。脇役ウォッチャーとしては国宝級の「おたから」にめぐりあったような気持ちです。はい。
続けて度肝を抜かれるのが、山口淑子の美しさだ。
ホントにまあ……「ためいきが出る」っていうんでしょうか。「美人」という言霊では、足りない。「麗人」という言い方がまことふさわしい。どんな微光でも増幅して強く輝くような完璧なカッティングの宝石のよう。ちょっと変な例えですが……一番綺麗なときの「エリザベス・テイラー」と「ジュディ・オング」を足して2で割ったみたいな相貌。
●不思議な「キモノ・ガウン」?
彼女が着ている着物、これが面白い。着物とガウンを足して2で割ったような不思議なもので、襟をまったく抜かずにキッチリと前を合わせる。細帯をベルトのようにしめて、後ろは変わり文庫などを差し込むだけの飾り帯。そして袖の部分は殆どなく、思いっきり元禄にカットしている。この役のために考案されたものなのか、それとも当時、ちょっと流行ったのか?
これね、本当にもんのすごい数のスターが出てくるんですよ。当時のポスターによると計56人ものスターが出ているんだそう。ちょっとザーッと印象メモを列記してみます。
日本に着いてすぐ、空港で登場するのが三木のり平と有島一郎。出てきただけで、場内のオールド・ファンから笑いが漏れる。いーなぁ、こーいう空気。有島一郎って本当に「クールに上から」な風情が可笑しい。すっごく冷酷な悪役とか似合ったろうなあ。そういう役をやられている作品、何かあるのだろうか。
ホテルのメリーを訪ねる旧友役の久慈あさみ。私、このひとを観るたび
「藤間紫→久慈あさみ→越路吹雪」
という一連の流れを思わざるを得ない。なんか似てませんこの3人!? なんというか……だんだん顔が長くなるというか、アクが強くなるというか。そのアクは例えるなら……「姉御菌」みたいなもの。「姐さん→姉御→大姉御」というかなんというか。
この旧友もデザイナーなんですね。その腹心に上原謙。このひと、カラーだとイマイチ映えない印象。モノクロが「のる」顔だ(唯一の例外は『夜の河』)。このデザイン事務所の助手に白川由美、青山京子。どちらもおっそろしく綺麗。
そして唐突に挿入されるミュージカル・シーン。メリーたちが泊まっているホテルの余興という設定なんだが、直球で書いちゃいます。振付・構成のひどさには唖然! 日本のレビューってこんなに低レベルだったのだろうか!? いかにも顔見せ、という感じで淡路恵子、草笛光子、根岸明美がちょろっと登場。
上原謙のなじみの芸者がホテルのロビーに登場。。八千草薫、扇千景といった面々。これまたレビューで日舞を披露。これは流石にまあまあ。端唄の『春雨』(唄なし)で、花柳寿二郎という方の振付でけっこうたっぷり踊っている。
●女優たち、百花繚乱
一行が乗るバスのガイドに香川京子。めっぽうかわいい。本当に清廉な風情の人だ。
八千草薫演じる芸者、これがチョイ曲者。馴染の客で織物メーカーの男をショーにかませて、ひと儲けしようとする。この男が小林桂樹。そしてふたりが密談する喫茶店の娘に司葉子。
カメラに愛されてるなあ! そうシミジミ彼女のアップに思わされる。東宝という「水」との馴染の良さを感じずにはおれない。会社が「この女優に期待!」と強く思っていたのが伝わってくるような愛情あるアップの連続。しかしお芝居は……お上手じゃありませんねえ(笑)。ちょっと口の立つ子、という役柄もよくなかったんだろうが。
そうそう、八千草薫が抜群に可愛くて、コケティッシュで。このひとしか「華奢」って言葉遣っちゃダメですね(浅丘ルリ子は細いが、華奢ではないと思う。あのひと、「線」は太いもの)。しかし今回気づかされたんですが、このひとの声って「老け声」なんですね。中年になってからの役しかキチンと観たことがなかったので気づかなかったが(テレビドラマの大傑作『阿修羅のごとく』とかね)、プリップリの娘時代だと、声と顔がそぐわない。年増の声なのね。女優として、あの声にふさわしい「自分」をつくりあげて来られたのだなあ、と感じ入った。
司葉子の恋人に銀座の花屋役で宝田明。この二人もショー用の花を担当せんと画策する。コンビで有名な『美貌の都』シリーズ、観たいんだよなあ。
この二人が食べに行く中華料理屋さんの主人が森繁久彌。これも出てきただけで神保町シアター、場内大喜び。ザッツ・中国人的な「ナニイテルアルヨ」みたいなベタな話し方なんだが思いっきり笑わされてしまう。お客さん役の宝田明、司葉子も笑っているが、司葉子は地で笑っていたと思う。そしてこの中華料理屋の名前が「李香蘭」。昔の人、素敵にふざけるなあ。
メリーの幼なじみに小泉博。甘い二枚目ですね。こんなに出番のある小泉博を観るのは初めて。女を抱きしめる後姿が決まる、というのはある種貴重なのだ。
紆余曲折あってファッションショー開催。
「ショーの前に、日本ファッション協会会長よりご挨拶がございます」
なーんてナレーションのあとに会長役・原節子登場。会長さんといえば大沢家政婦紹介所の野村昭子さんしか知りませんでしたが、ファッション協会は原節子なんですね。なんと星型のスポットライトに照らされて登場。天女降臨、といった風情。
なんでも原節子自身がこの映画の発起人だったという話だが、真相は微妙だろう。東宝宣伝部の話題づくりだったと思う。あと、何でそうなったのか分からないが、日本映画データベースやgooのサイトでは原節子の役が「おでん屋の女将」になっちゃってるんですね。今回のことで見直したら、千葉伸夫さんの名著『原節子』でも同様だった(大和書房版。文庫では直っているだろうか?)。
このショーにモデル役で女優が大挙出演。中でも安西郷子の美貌と存在感が格別。モダンというか西洋的というか、とにかく垢抜けしている。今の人がもっとも「きれい!」と思うのは、このひとだろう。
このショー、当然のように途中から完全なレビューになる。東宝ミュージカルといえばこのひと、雪村いづみが登場して歌い踊る。しっかしスタイルがいいなあ。あの伝説のファッション誌『それいゆ』のモデルだったというのも納得。
そしてデザイナー本人メリー川口も当然のように歌う歌う。曲はもちろん『夜来香』(イエライシャン)! ご都合主義もここまでくれば立派。逆に現代って、キッチリ筋立ってないとあーだこーだ様々な方面がうるさくて窮屈な時代なのかもしれませんね。
レビューでは越路吹雪が歌って踊って大活躍。民謡ポップスを3曲だか披露しますが、こーいうのの先駆者って江利チエミではなく、越路吹雪なのかもしれない。そしてコーちゃん、日舞が上手だ。たいしたもの。ただ『五木の子守唄』って、哀しい唄でしょう。それを楽しいナンバーみたいに仕上げる構成には疑問。あーだこーだ一番うるさいのは私か。
そしてレビューのトリは宮城まり子。童謡だったかを歌ったが、このひとはどうして人気が出たんだろう。イマイチ、わからない。女優としての個性は分かるのだけれど、一般的な人気が出たいきさつを知りたいな。
そしてフィナーレ、メリー帰国のパーティには柳家金語楼、三船敏郎が登場。もうゲップ出そうなぐらいのスター責めです。とどめを刺すようにボーイ役で久保明まで。これがまたボーイ役が似合うんだ(笑)。どうでもいいが、このひと見るたびに「なんて真面目そうな二枚目だろうか。絶対冗談通じなさそう。からかったらムキになって怒り出しそう」と妄想してしまう。本当にどうでもいいが。
最後にはメリーが機上の人となり、小さくなる日本に向かって「サヨナラ」と告げて、幕。こんな豪華な引退映画を作ってもらえて、山口淑子はしあわせものだ。
そういや、最近の『週刊朝日』でショーケンこと萩原健一が「山口淑子を復活させて映画を作りたいんだ!」と気を吐いていたが、さてどうなりますことやら。
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